世界心霊宝典 Ⅳ ジャック・ウェバーの霊現象 ハリー・エドワーズ著
第一章 ま え が き 第二章 霊媒ジャック・ウェバー 第三章 赤外線写真 第四章 トリックの防止措置 第五章 サンデーピクトリアル紙記者バーナード・グレイ氏のリポート 第六章 心霊評論家コリン・エバンズ氏の論評 第七章 デイリー・ミラー紙記者〝カサンドラ〟のリポート 第八章 上着の瞬間的脱着現象 第九章 物品引寄現象(アポ―ツ) 第十章 頭部の幽体写真 第十一章 霊媒の浮揚現象 第十二章 テーブルの浮揚現象 第十三章 メガホン現象 第十四章 アームとロッド 第十五章 ボイスボックス 第十六章 エクトプラズム 第十七章 物質化現象 第十八章 心霊紙の記事から 第十九章 出席者による危険行為 第二〇章 背後霊以外の霊による妨害行為 第二一章 結 論 第二二章 ウェバー氏の急死と〝帰還〟 第二三章 著者の自己紹介 〇参考資料 エクトプラズム(J・G・E・ライト) 霊媒(ナンドー・フォドー) 英国国教会〝スピリチュアリズム調査委員会〟多数意見報告書 A・R・ウォーレスの実験会ノート 霊界(ウラ)からみた交霊会(シルバーバーチ) 〇訳者 あとがき 〇物理的心霊現象と認識論(梅原伸太郎) |
第一章 まえがき
本書は心霊的超常現象の写真とその解説から構成されている。
写真は一九三八年十一月から翌年十二月までの十四か月間に、物理霊媒ジャック・ウェバー氏の心霊実験会で起きた現象を撮影したものである。決して遠い昔の出来ごとではない。今われわれが生きている時代に起きたものであり、同種のものはどこかで現在なお一年中ひんぱんに起きている。
実験には特別仕立てのステージはいらない。ウェバー氏は回数にして一年に百五十回から二百回の実験を行ったが、その大半は氏が一度も訪れたことのない場所で行われている。氏はたいてい付き添いなしで行動していたので、前もっての工作や共同謀議の嫌疑はまず問題外である。
一九三九年の一年間には延べにして四千人以上の人が、数人による小さな家庭交霊会(ホームサークル)、ないしは五百人もの大集会において、氏の現象を見たことになる。
本書に収められた写真は同じ実験会のものばかりではない。各地の会場で撮ったものを集めたもので、中にはウェバー氏が一度も訪れたことのない場所でのものも入っている。氏は会の始まるわずか二、三分前に会場に到着したことも一再ではない。
撮影者は英国内の新聞社から招待した公式の報道写真家ばかりで、各自が愛用のカメラとプレート(感光板)を持参し、現像・焼き付けの全過程を自社のスタジオで行った。他にも、たまたまよいカメラをもっているということで撮影した人もいた。
右の十四か月間には各界から大勢の人に証人として特別に立ち会っていただいた。BBC放送の代表、大手新聞社の代表、英国の心霊紙「サイキック・ニューズ」「ツーワールズ」「ライト」及び米国の「心霊研究ジャーナル」の各編集者、海軍元師、牧師、医師、科学者、大学役員、等々である。特にロンドンおよび地方の心霊研究機関の代表員が念入りに霊媒の身体検査を行った。
疑り深い人は当然、写真と解説の真実性を問題にするであろう。が、仮に本物でないとすると、右に紹介したような各界の著名な代表を含む何千人もの人々を手玉にとった陰謀が、これといった動機も報酬もなしに、単に〝人を騙す〟ということのために大々的に行われたことになる。
もともと新聞社およびそのスタッフは詐欺行為などはソレ見ろとばかりに大よろこびで暴こうとするものである。なのに、出席した全員が──一人の例外もなしに──その真実性を実証している。いかに酷評をもって鳴らす批評家でも、ジャック・ウェバーの心霊現象を証言した用心深い詮索好きの名士たちをバカ者呼ばわりや間抜け呼ばわりは出来まい。
仮に写真がみな偽造されたとすると、これほど完璧な偽造写真を製造するには、一流の写真工場を一つでなく幾つも抱き込み、さらに新聞社の専門スタッフまでも抱き込まねばなるまい。が、実際問題として、フィルムを偽造しても意味がない。なぜなら、カメラのフラッシュが閃いた時は列席者も同じ現象を目撃していたからである。
意地の悪い人間が問題にするのは報道における作為であろう。が、実験に関する報道記事はたった一つや二つではなく、何十もの記事が心霊紙をはじめ一般の大手の日刊新聞でベテラン記者によって発表され、それがことごとく現象を高く評価しているという事実を忘れてはならない。そのうちの幾つかを本書にも記者名と発行日とともに転載しておいた。
交霊会の様子については三人の記者による記事を紹介してある。二人は大手の日刊新聞の記者で、もう一人は心霊学に造詣深いベテランの評論家である。これによって交霊会がどんなものかがよくわかっていただけると思う。
さて、本書の目的は、霊媒を通じて顕現されている霊の威力に関する既に証明ずみの知識に、少しばかりではあるが、新たな知識を付加することにある。
現象は霊媒がわれわれの要請に従って椅子に座り、深い入神状態(トランス)に入って通常の意識が休止した時点から発生しはじめる。その状態において霊力の顕現しやすい肉体的ならびに精神的条件が整う。その時、現象の受け入れ態勢が出来上がるわけである。
一つ一つの物質の動き、一つ一つの振動作用に放射作用、さらには生命そのものまでが、法則によって規制された一定のエネルギーによって左右されている。
たとえば、ある物体が空中に浮きあがってまた元の位置に戻るという単純な現象でさえ、物質を超えたある種のエネルギーが作用している。それと同じ現象が心霊的エネルギーによって演出されるということは、この心霊的エネルギーを物体に作用させる知識をもった知的存在の働きを示唆している。
さらに写真に示されたような複雑に入り組んだ現象を演出するためには、物的ならびに心霊的エネルギーならびにそれをコントロールする法則に関係する豊富な知識を持ち合わせていなければならない。
家庭交霊会においても、あるいは大会場におけるデモンストレーションにおいても、第三者が霊媒にリモートコントロール式に働きかけて現象を演出させることは不可能であることから考えて、実際に現象を演出しているのは目に見えない存在であることが想像される。
それを霊媒の潜在意識の働きのせいにすることは出来ない。なぜなら人間の潜在意識にそのような作用があることを証明する事実は何一つないからである。
従って本書で紹介する現象が完全に人間の理解を超えたものであるとなると、その演出に携わっている知的存在は〝肉体のない人間〟であり、従って人間は肉体の死後も生き続けていることになる──そう結論する以外に解釈の方法がないのである。
そう解釈すれば、その演出に当たっている知的存在──支配霊(コントロール)──が、かつて自分たちも地上で生活したことがあると述べれば、それをそのまま信じてよいはずである。それを裏付ける絶対的証拠がある。
たとえば、その霊が肉眼に映じる物質をまとって身内の者の前に姿を見せ、互いに確認しあえる地上時代の話を自分の声でしゃべっていることである。こうなると肉親も友人も、そうやって通信できる能力をもったまま、相変わらず〝生き続けている〟に違いないことは、もはや議論の余地がない。本書がその証明となれば初期の目的を達成したことになる。
〝死後の存続〟の事実を疑問の余地のないまでに証明するということは、人類にとって計り知れない価値を有する。この地上生活はさらにもう一段上の明るい生活への準備段階(プレリユード)であり、そこには本質的に今と変わらない個人としての生活があり、従ってこの世での行いがその位置づけをすることになると認識すれば、おのずとこれまでの生活規範に改革を迫られることになる。
この打算的で詮索好きな人間の多い時代にあってアカ抜けのした人生哲学を築くには、よほど確固とした証明可能な土台が必要である。この(第二次)世界大戦の最中においては、これまでになく、そうした人生哲学が要求されるし、多分、大戦後の再建の時代にはもっと必要となろう。世界のすべての民族が単なる伝統的教義よりもっと強力な基盤に立った新しい道徳律(モラル)を求めるようになるであろう。
今日の文明機構は一宗一派による宗教的打算の上に成り立っており、不正が横行し、それが戦争を生み、革命を起こし、人間的な不幸へとつながっていく。過去における平和への努力は詰まるところ宗教的打算の上で行われて来たのであり、当然の結果として、それは失敗に終わっている。
本当の平和、本当の四海同胞は、人生の意義と目的を説く確固たる知識に基盤を置いた強烈な霊的勢力をバックにしたものでなくてはならない。それによって偏見が影をひそめ、死後存続の意義の重大性に一般の人々が目覚めれば、人類の文明はますます霊的価値を伴ったものとなり、社会的規範も、経済的観念も、国家的慣習も、そして国際的通念も大々的に再構築を迫られ、人間的努力は詮ずるところ人類全体としての平和的で協調的な霊的進化のために為されるべきであるとの理解に立って生活を発展させて行くことになるに違いない。
言い換えれば、究極の目的は世界を霊的に浄化することでなければならないのである。
最後に、度重なる実験に快く応じてくださったウェバー氏とその背後霊(スピリット)、並びに実験に協力を惜しまなかった大勢の方々の忍耐と理解に対して深甚なる感謝の意を表したい。
時としてわれわれ主催者の不手際から何週間もの苦労が水の泡となってしまったこともあったのだが、何一つグチを聞かされたことがなかった。こうした霊界のスピリットとの密接な協力関係で仕事を続けてみて始めて私は霊力の無限さを如実に痛感させられ、今ではいかなる親友にも劣らない親密さを覚えている。
その素晴らしいスピリットの友人に対して私は感謝の言葉を知らないのである。
写真の撮影に赤外線を使用して下さったのはレオン・アイザック氏で、氏が完成させた実用的な赤外線照明装置のおかげである。
サイキック・ニューズ社の主筆モーリス・バーバネル氏には終始協力していただいた。また心霊紙「サイキック・ニューズ」と「ツーワールズ」、全国版の日刊新聞「デーリーミラー」、日曜新聞「サンデーピクトリアル」から多くの記事を抜粋させていただいた。ここに記して謝意を表する次第である。
ハリー・エドワーズ
一九四〇年一月 記す
第二章 霊媒ジャック・ウェバー
ジョン・B・ウェバー、通称ジャック・ウェバーは一九〇七年、英国の南ウェールズ州の生まれである。
子供時代はほかの子供と変わらない普通の子だった。もっとも、普通よりはすこし放任主義的な環境で育ったようである。学校を欠席しても別に咎められるようなこともなく、従ってあまり教育は受けていない。と言ったことなどからそれが窺える。
十四歳の時に炭鉱夫となり、一九三六年まで十三年間も従事した。その期間の後半は昼間地下で石炭を掘り、夕方家に帰ると霊媒としての仕事をするという、二重の生活をしている。この二つの肉体労働による疲労はやはり耐え切れるものではなく、ついに坑夫の方をやめた。
成人して間もない頃、一時救世軍の楽隊のコルネット奏者をしたことがある。母親が救世軍の熱烈な隊員であったことからそうなったのだが、一方父親の方はプロテスタント教会の鳴鍾係をしていた。
二十一歳の時にローダ・バートレットという女性と知り合い、二年後の一九三〇年に結婚している。二人の間に二人の男の子がいる。デンジルとジョージである。
実は奥さんのローダの家庭が熱心なスピリチュアリストで、二人が初めて知り合った頃は自宅で霊能開発のためのホームサークルを幾つか開いていた。
ウェバー氏が今日あるのは、他ならぬその奥さんとエバンズ夫妻(奥さんのご両親)の並々ならぬ忍耐と誠実さのおかげであり、同時に、今心霊治療家として、講演者として、また霊視家として名声を馳せているもう一人の娘さんウィニー(のちのルーク夫人)のおかげでもある。
が、奥さんと知り合った頃のウェバー氏にとってはスピリチュアリズムは、本人の言葉を借りれば〝バカげたこと〟だった。ホームサークルに出席したのも奥さんといっしょにいたいという、ただそれだけの理由からで、退屈のあまりウェバー氏は決まって居眠りをするのだった。
そのサークルはその頃はテーブル現象を目的としていた。そしてテーブル現象につきものの叩音(ラップ)による通信がよく来た。ウェバー氏はそれを頭から信じようとしなかった。ある夜ウェバーは悪ふざけを思いつき、テーブルに操作を施して、間違った通信が出るようにしておいた。
ところが驚いたことに、彼としては絶対に大丈夫と自信をもっていたにもかかわらず、きちんとメッセージが来た。さらに驚いたことに、そのメッセージがある婦人が無くしていた大金の入ったハンドバックの所在を正確に指示してきたのである。
このことがあってからウェバー氏はホームサークルというものについての考えが変化しはじめ、興味をもつようになった。
その後ウェバー自身の背後霊から数日間行方不明になっている男性の遺体が近くの川の橋のそばにあることを告げて来て、それが間違いなくその通りであることが判明した。またある時は友達に仲間の坑夫が死んだことを告げた。三人はその日の午後ずっといっしょに働いていて、別れる時も異常はなく、至って元気だった。
当然のことながら友達はそれを聞いてバカなことを言うなと取り合わなかった。ところがあとでそれが事実であることが判明した。その仲間はその日の午後自宅のテーブルに向かって腰掛けたまま死んでいたという。
その後サークルはテーブル現象から入神現象を目的としたものに変わっていった。そして二年後にはウェバーも半入神状態に入るようになっていった。
入神できるようになれば、次はスピリットによって心身の支配を受ける訓練になったが、このサークルは次第にウェバー氏の今日の仕事のために氏の背後霊が活躍する場となった。がその過程は平坦なものではなかった。慣れない背後霊が乱暴に氏の身体を使おうとするので、ハラハラさせられる場面がしばしばあった。
総指揮をする中心的支配霊はブラック・クラウドと名のった。初期の頃はオモチャの楽器などを霊媒(ウェバー)のそばに置くように要求し、その後すぐメガホンも加えられた。最初はそうした小道具が少し動いたりラップ(叩音)が起きる程度だったが、間もなく急激な変化を見せはじめ、メガホンなどが浮揚しはじめた。
ウェバーをキャビネット(カーテンで仕切られた暗室)の中にいれようという案があった。が、ウェバーの性格からすると、そういう隔離された場所に隠れるということはある種の疑いを招きかねないという考えがあった。
結局ウェバーはこれまで一度もキャビネットを使用したことはない。サークルに混じって、列席者と同じように腰掛けた。さらに用心として、まず第一に手足をその椅子にロープで縛りつけられた。ジャック・ウェーバーの霊現象はこうした条件下で行われるようになり、今では背後霊もそうした条件に慣れっこになっている。
このほかに霊媒の不正行為を防ぐ方法として、拘束服を着せることや袋に詰めて縫い上げてしまうことや、ケースの中に閉じ込めてしまうことなどが心霊家から提案された。が、次の三つの理由からそれは拒否された。
まず第一に、せっかく背後霊がやり慣れた条件を根本的に変えてしまうこと。第二に、いくら実験とはいえ、あまりに奇抜なことや霊媒の〝自尊心を傷つける〟ようなことまですべきでないこと。そして最後に、そうまでしなくても、次章で述べるような赤色ランプを使用すれば、あとは普通の事前措置さえ怠らなければ充分であること。
実はこの段階でもウェバーはまだ自分を通じての霊力の働きに対して懐疑の念を棄て切れずにいた。自分の心霊能力に確信を抱くようになったのは、自ら別の霊媒による実験会に何度か出席して同じような現象を目撃し、同席した人々といっしょにそれを確認してからであった。
ところがウェバーはやがて強力な治療能力を発揮しはじめた。それは主としてマロダールと名のる若いエジプト人が支配した時に見られた。
単に心霊治療を施すだけでなく、各種の薬草を採取して、それを調合することまでやり、その規模が次第に大きくなっていった。本人の語ったところによると、ボンヤリとした半覚醒状態のまま家から連れ出されて、近くの薬草の繁っている湿地帯や野原へ行って採取し、それを持ち帰って、病気に応じて調合したという。
しかし、そうした治療活動による肉体的疲労があまりに大きいために、物理現象の発達と共に、支配霊の許しを得て治療活動はやめることになった。
補 遺 一九四〇年五月
一九四〇年初頭のことであったが、サークルのメンバーの一人であるスタンレー・クロフト氏が非常にふさぎ込んだ様子でその夜の交霊会にやって来た。聞くと英国南西部に疎開(第二次世界大戦のため)している娘さんが毒血症で入院し、生命の危険があるという。
そこで会が始まるとすぐウェバー氏の治療担当背後霊団に救助をもとめたところ、何とか手を打ってみましょうと言う。しばらくしてその中でも中心的指導霊であるマロダールが出て、メガホンを通じて、いま患者のところへ行ってみたが毒を抜き取る必要があるので、これからもう一度行ってくるという。同時に彼は、証拠性価値のある事実を述べた──その毒は何かの昆虫が頭部を刺したために入ったのだと。
その時点では虫に刺されたことまで聞き出しておらず、従って病院側はその病気の原因がさっぱり判らなかった。
クロフト氏はさっそくそのことを病院へ知らせ、虫に刺されたかどうか本人に確認してみてほしいとお願いした。本人はそのことを問い質されてはじめて、症状が出る一日か二日前にハチが髪の毛にからまって、それを取り出そうとした時に刺されたことを思い出した。
本人も母親も病気とその事実をつなげて考えていなかった。この事実は、スピリットの診断の素晴らしさを証明すると同時に、それがテレパシーによるものでないことを明らかにする結果となった。
二、三日もすると毒がすっかり無くなり、完全な健康体に復した。
薬効のあるオイル性のものがウェバー氏の両手からにじみ出る時の光景は実に目を見張るものがあった。ウェバー氏が入神状態で患者のわきに立っていると、両手から濃厚なオイル性のものがにじみ出てくる。べっとりとしているので、まるでワセリンの缶に手を突っ込んだかと思われるほどである。その手で患者の肌をマッサージするのだった。
目標としている現象に備えてスピリットが霊媒を鍛錬するのは養成会の時だけに限らなかった。夜中にも引き続いてさまざまな現象が起きた。大きな音がする。
毛布がベッドから引きずり下ろされる。オイルランプのほか、あれこれとこまごましたものが置いてあるテーブルが宙に浮いて横向きに倒され、そのまま床に下りてもランプのオイルは一滴もこぼれず、物一つ落下しない。そしてやがて元の位置に戻される。声も聞かれた。
あまりのひどさにウェバー氏が〝静かにしてくれ〟と大声で怒鳴ることも度々あった。
年齢とともに霊媒としての能力が次第に発達し、メガホンを使っての声、及びメガホンなしで聞こえる声がだんだん大きくなって行った。頭部(顔)や手先の物質化現象も見られるようになった。そしてついに心霊仲間の要請でやむなく見知らぬ人の前で披露することになった。
実を言うとウェバー氏自身はつい最近までこうした現象を怖がっていたのである。実験会では、ウェバー氏が着席して明りが消されるとすぐ、まだ氏が入神しないうちから音がしたりメガホンその他が空中を舞い出す。それをウェバー氏は入神してしまうまで、つまり意識が無くなるまで怖がっていたのである。
今では怖がらなくなりつつある。というのも、赤色光での養成会でも同じように無意識にならないうちから声やメガホンなどの現象が起きているからである。最初のころは二、三秒間しか続かなかったが、週ごとに徐々に長くなって五分ないし十分となり、今ではウェバー氏自身もその現象の一部を見たり、自分の背後霊団の話を聞いたり、こちらから話しかけたりできるまでになっている。
ウェバー氏は控え目な性格である。学識はほとんど無い。陸上競技が好きで、投げ矢遊びが大好きな人であるが、同時に、自分に出来うるかぎりの援助を惜しまない人である。他界した肉親縁者からの慰めを必要とする人には、たとえ謝礼が通常の何分の一しか払えない人でも、氏は決して断ったことはない。
霊の世界についての知識を求めようとするわれわれの努力に、氏はいつも快く協力してくれている。
ここでウェバー氏の現時点での背後霊を紹介しておく。(背後霊は年齢とともに必要に応じて入れ替わることがある──訳者)
ブラック・クラウド──モーホーク族のインディアン。交霊実験会の最高責任者で、霊
媒の身体を直接コントロールする。はじめて出現した時は英語がしゃべれず、ある程
度の英会話を勉強するために、しばらく留守にしたことがある。
写真撮影に際しての積極的な協力と並々ならぬ理解──この理解が列席者に非常に好
感をもたせたのであるが──に対して負うところきわめて大なるものがある。
パディ──少年の霊で、実験会の進行の上で一ばん活発に働いている。人間側のサーク
ルに対する霊界側のサークルの進行係を受け持っていて、自分の存在を地上の縁者に
知らせたがるスピリットに、たとえばエクトプラズムで出来たボイスボックス(発声
器官)などの使い方を指導している。実にユーモアのある性格をしているが、現象の
説明などになると一転して真剣そのものになる。よくか細い声で歌ったり物質化して
出てきたりする。
サークルのメンバーの自宅に出向いてその日の出来事を観察しておいて、実験会でそ
ハリー・エドワーズ
一九四〇年一月 記す
第二章 霊媒ジャック・ウェバー
ジョン・B・ウェバー、通称ジャック・ウェバーは一九〇七年、英国の南ウェールズ州の生まれである。
子供時代はほかの子供と変わらない普通の子だった。もっとも、普通よりはすこし放任主義的な環境で育ったようである。学校を欠席しても別に咎められるようなこともなく、従ってあまり教育は受けていない。と言ったことなどからそれが窺える。
十四歳の時に炭鉱夫となり、一九三六年まで十三年間も従事した。その期間の後半は昼間地下で石炭を掘り、夕方家に帰ると霊媒としての仕事をするという、二重の生活をしている。この二つの肉体労働による疲労はやはり耐え切れるものではなく、ついに坑夫の方をやめた。
成人して間もない頃、一時救世軍の楽隊のコルネット奏者をしたことがある。母親が救世軍の熱烈な隊員であったことからそうなったのだが、一方父親の方はプロテスタント教会の鳴鍾係をしていた。
二十一歳の時にローダ・バートレットという女性と知り合い、二年後の一九三〇年に結婚している。二人の間に二人の男の子がいる。デンジルとジョージである。
実は奥さんのローダの家庭が熱心なスピリチュアリストで、二人が初めて知り合った頃は自宅で霊能開発のためのホームサークルを幾つか開いていた。
ウェバー氏が今日あるのは、他ならぬその奥さんとエバンズ夫妻(奥さんのご両親)の並々ならぬ忍耐と誠実さのおかげであり、同時に、今心霊治療家として、講演者として、また霊視家として名声を馳せているもう一人の娘さんウィニー(のちのルーク夫人)のおかげでもある。
が、奥さんと知り合った頃のウェバー氏にとってはスピリチュアリズムは、本人の言葉を借りれば〝バカげたこと〟だった。ホームサークルに出席したのも奥さんといっしょにいたいという、ただそれだけの理由からで、退屈のあまりウェバー氏は決まって居眠りをするのだった。
そのサークルはその頃はテーブル現象を目的としていた。そしてテーブル現象につきものの叩音(ラップ)による通信がよく来た。ウェバー氏はそれを頭から信じようとしなかった。ある夜ウェバーは悪ふざけを思いつき、テーブルに操作を施して、間違った通信が出るようにしておいた。
ところが驚いたことに、彼としては絶対に大丈夫と自信をもっていたにもかかわらず、きちんとメッセージが来た。さらに驚いたことに、そのメッセージがある婦人が無くしていた大金の入ったハンドバックの所在を正確に指示してきたのである。
このことがあってからウェバー氏はホームサークルというものについての考えが変化しはじめ、興味をもつようになった。
その後ウェバー自身の背後霊から数日間行方不明になっている男性の遺体が近くの川の橋のそばにあることを告げて来て、それが間違いなくその通りであることが判明した。またある時は友達に仲間の坑夫が死んだことを告げた。三人はその日の午後ずっといっしょに働いていて、別れる時も異常はなく、至って元気だった。
当然のことながら友達はそれを聞いてバカなことを言うなと取り合わなかった。ところがあとでそれが事実であることが判明した。その仲間はその日の午後自宅のテーブルに向かって腰掛けたまま死んでいたという。
その後サークルはテーブル現象から入神現象を目的としたものに変わっていった。そして二年後にはウェバーも半入神状態に入るようになっていった。
入神できるようになれば、次はスピリットによって心身の支配を受ける訓練になったが、このサークルは次第にウェバー氏の今日の仕事のために氏の背後霊が活躍する場となった。がその過程は平坦なものではなかった。慣れない背後霊が乱暴に氏の身体を使おうとするので、ハラハラさせられる場面がしばしばあった。
総指揮をする中心的支配霊はブラック・クラウドと名のった。初期の頃はオモチャの楽器などを霊媒(ウェバー)のそばに置くように要求し、その後すぐメガホンも加えられた。最初はそうした小道具が少し動いたりラップ(叩音)が起きる程度だったが、間もなく急激な変化を見せはじめ、メガホンなどが浮揚しはじめた。
ウェバーをキャビネット(カーテンで仕切られた暗室)の中にいれようという案があった。が、ウェバーの性格からすると、そういう隔離された場所に隠れるということはある種の疑いを招きかねないという考えがあった。
結局ウェバーはこれまで一度もキャビネットを使用したことはない。サークルに混じって、列席者と同じように腰掛けた。さらに用心として、まず第一に手足をその椅子にロープで縛りつけられた。ジャック・ウェーバーの霊現象はこうした条件下で行われるようになり、今では背後霊もそうした条件に慣れっこになっている。
このほかに霊媒の不正行為を防ぐ方法として、拘束服を着せることや袋に詰めて縫い上げてしまうことや、ケースの中に閉じ込めてしまうことなどが心霊家から提案された。が、次の三つの理由からそれは拒否された。
まず第一に、せっかく背後霊がやり慣れた条件を根本的に変えてしまうこと。第二に、いくら実験とはいえ、あまりに奇抜なことや霊媒の〝自尊心を傷つける〟ようなことまですべきでないこと。そして最後に、そうまでしなくても、次章で述べるような赤色ランプを使用すれば、あとは普通の事前措置さえ怠らなければ充分であること。
実はこの段階でもウェバーはまだ自分を通じての霊力の働きに対して懐疑の念を棄て切れずにいた。自分の心霊能力に確信を抱くようになったのは、自ら別の霊媒による実験会に何度か出席して同じような現象を目撃し、同席した人々といっしょにそれを確認してからであった。
ところがウェバーはやがて強力な治療能力を発揮しはじめた。それは主としてマロダールと名のる若いエジプト人が支配した時に見られた。
単に心霊治療を施すだけでなく、各種の薬草を採取して、それを調合することまでやり、その規模が次第に大きくなっていった。本人の語ったところによると、ボンヤリとした半覚醒状態のまま家から連れ出されて、近くの薬草の繁っている湿地帯や野原へ行って採取し、それを持ち帰って、病気に応じて調合したという。
しかし、そうした治療活動による肉体的疲労があまりに大きいために、物理現象の発達と共に、支配霊の許しを得て治療活動はやめることになった。
補 遺 一九四〇年五月
一九四〇年初頭のことであったが、サークルのメンバーの一人であるスタンレー・クロフト氏が非常にふさぎ込んだ様子でその夜の交霊会にやって来た。聞くと英国南西部に疎開(第二次世界大戦のため)している娘さんが毒血症で入院し、生命の危険があるという。
そこで会が始まるとすぐウェバー氏の治療担当背後霊団に救助をもとめたところ、何とか手を打ってみましょうと言う。しばらくしてその中でも中心的指導霊であるマロダールが出て、メガホンを通じて、いま患者のところへ行ってみたが毒を抜き取る必要があるので、これからもう一度行ってくるという。同時に彼は、証拠性価値のある事実を述べた──その毒は何かの昆虫が頭部を刺したために入ったのだと。
その時点では虫に刺されたことまで聞き出しておらず、従って病院側はその病気の原因がさっぱり判らなかった。
クロフト氏はさっそくそのことを病院へ知らせ、虫に刺されたかどうか本人に確認してみてほしいとお願いした。本人はそのことを問い質されてはじめて、症状が出る一日か二日前にハチが髪の毛にからまって、それを取り出そうとした時に刺されたことを思い出した。
本人も母親も病気とその事実をつなげて考えていなかった。この事実は、スピリットの診断の素晴らしさを証明すると同時に、それがテレパシーによるものでないことを明らかにする結果となった。
二、三日もすると毒がすっかり無くなり、完全な健康体に復した。
薬効のあるオイル性のものがウェバー氏の両手からにじみ出る時の光景は実に目を見張るものがあった。ウェバー氏が入神状態で患者のわきに立っていると、両手から濃厚なオイル性のものがにじみ出てくる。べっとりとしているので、まるでワセリンの缶に手を突っ込んだかと思われるほどである。その手で患者の肌をマッサージするのだった。
目標としている現象に備えてスピリットが霊媒を鍛錬するのは養成会の時だけに限らなかった。夜中にも引き続いてさまざまな現象が起きた。大きな音がする。
毛布がベッドから引きずり下ろされる。オイルランプのほか、あれこれとこまごましたものが置いてあるテーブルが宙に浮いて横向きに倒され、そのまま床に下りてもランプのオイルは一滴もこぼれず、物一つ落下しない。そしてやがて元の位置に戻される。声も聞かれた。
あまりのひどさにウェバー氏が〝静かにしてくれ〟と大声で怒鳴ることも度々あった。
年齢とともに霊媒としての能力が次第に発達し、メガホンを使っての声、及びメガホンなしで聞こえる声がだんだん大きくなって行った。頭部(顔)や手先の物質化現象も見られるようになった。そしてついに心霊仲間の要請でやむなく見知らぬ人の前で披露することになった。
実を言うとウェバー氏自身はつい最近までこうした現象を怖がっていたのである。実験会では、ウェバー氏が着席して明りが消されるとすぐ、まだ氏が入神しないうちから音がしたりメガホンその他が空中を舞い出す。それをウェバー氏は入神してしまうまで、つまり意識が無くなるまで怖がっていたのである。
今では怖がらなくなりつつある。というのも、赤色光での養成会でも同じように無意識にならないうちから声やメガホンなどの現象が起きているからである。最初のころは二、三秒間しか続かなかったが、週ごとに徐々に長くなって五分ないし十分となり、今ではウェバー氏自身もその現象の一部を見たり、自分の背後霊団の話を聞いたり、こちらから話しかけたりできるまでになっている。
ウェバー氏は控え目な性格である。学識はほとんど無い。陸上競技が好きで、投げ矢遊びが大好きな人であるが、同時に、自分に出来うるかぎりの援助を惜しまない人である。他界した肉親縁者からの慰めを必要とする人には、たとえ謝礼が通常の何分の一しか払えない人でも、氏は決して断ったことはない。
霊の世界についての知識を求めようとするわれわれの努力に、氏はいつも快く協力してくれている。
ここでウェバー氏の現時点での背後霊を紹介しておく。(背後霊は年齢とともに必要に応じて入れ替わることがある──訳者)
ブラック・クラウド──モーホーク族のインディアン。交霊実験会の最高責任者で、霊
媒の身体を直接コントロールする。はじめて出現した時は英語がしゃべれず、ある程
度の英会話を勉強するために、しばらく留守にしたことがある。
写真撮影に際しての積極的な協力と並々ならぬ理解──この理解が列席者に非常に好
感をもたせたのであるが──に対して負うところきわめて大なるものがある。
パディ──少年の霊で、実験会の進行の上で一ばん活発に働いている。人間側のサーク
ルに対する霊界側のサークルの進行係を受け持っていて、自分の存在を地上の縁者に
知らせたがるスピリットに、たとえばエクトプラズムで出来たボイスボックス(発声
器官)などの使い方を指導している。実にユーモアのある性格をしているが、現象の
説明などになると一転して真剣そのものになる。よくか細い声で歌ったり物質化して
出てきたりする。
サークルのメンバーの自宅に出向いてその日の出来事を観察しておいて、実験会でそ
れを披露するというようなことをよくやる。
ルーベン──南米で学校の教師をしていた人。在世中に英国を訪れ、そこで、テタヌス
(筋の硬直と痙攣を伴う熱性の病気)で死亡している。はじめのころこの霊が憑って
ルーベン──南米で学校の教師をしていた人。在世中に英国を訪れ、そこで、テタヌス
(筋の硬直と痙攣を伴う熱性の病気)で死亡している。はじめのころこの霊が憑って
くると、その死亡時の症状がでて、霊媒のウェバー氏が身体をはげしくよじらせた。
この霊は実にパワーを感じさせることをよくやり、特にその迫力ある歌声は 有名で、
この霊は実にパワーを感じさせることをよくやり、特にその迫力ある歌声は 有名で、
声量豊かなバリトンはレコード会社のデッカが録音したほどである。まるで拡声器か
ら出てくるのではないかと思わせるほど大きな声である。
これについては後章で述べる。この人もステージで入神講演をすることがあるが、霊
媒の体力の消耗がはげしいので、今のところ中止している。完全に物質化したことが
ある。
このほかに治療霊団のマロダール、タルガ―、それにウェバー氏の大おじに当たるジョン・ボーデン牧師。それからミラー博士とデール教授。この二人は主として物質化現象を担当し、その地上時代の経歴は本人から出された証拠によって確認されている。
第三章 赤外線写真
本書で紹介してある写真の撮影方法を素人流に説明すれば、およそ次の通りである。
写真はすべて赤外線を使って撮影された。赤外線を使用すると、暗闇の中でも被写体の全てが普通の照明の中で撮ったのと同じくらい鮮明に写る。
方法としては光線を通さないキャビネットの中に設置したフラッシュを閃(タ)く、というだけである。キャビネットの片側には赤外線のフィルターを取り付けてある。
バルブ sashalite bulb は一〇〇、〇〇〇から一五〇、〇〇〇ワットの光線を出す。閃光時間すなわち露出時間は 1/50 ないし 1/75 秒である。
それ程の短時間にそれほど強力な光を出しても、人間の目にはぼんやりとした弱い光にしか見えない。
カメラにはその赤外線に感光しやすいプレート(感光板)が入れてある。
赤外線がはじめて暗闇での写真撮影に使用されるようになった時、巷間ではこれで交霊会のトリックが暴かれると噂されたものであるが、現実にはウェバー氏の実験会によって物理的心霊現象の真実性が証明され、同時にそれが人間の〝死後の存続〟の証拠を提供することにもなった。
赤外線はこうした用途にはもってこいである。まず第一に、発せられる光線がエクトプラズムの物質化像その他にはほとんど害がないこと(紫外線のあるところではそうした物質化像はできない。霊媒の身体に危険だからである)。
第二に暗闇の中での写真撮影を可能にしてくれるものとしては、これまでのところこれが唯一の方法だということ。
露出時間の短いことで霊媒と列席者との間の共謀の可能性が消える。席を少し動いても知れてしまうからである。
原則として複数のカメラを各所に設置して、いろんな角度から撮影している。その他に、相応なシャッター速度のカメラを持っている人なら誰でも撮影が許された。
所載の写真の大部分は(第一章で紹介した通りの)新聞社その他諸機関からの公式の代表立ち合いのもとで、ウェバー氏の霊能養成会(ホームサークル)による写真撮影を目的とした特別実験会で撮影されたもので、撮影用の器具一切は自分のものを持参していただいた。時にはウェバー氏がかつて一度も訪れたことのない土地でも行われた。
大抵の場合、入神したウェバー氏を通じて中心的支配霊のブラック・クラウドがシャッターチャンスを知らせ、その瞬間にフラッシュの担当者がスイッチを押す。その間レンズは露出したままで、フラッシュが閃かれるのを待っている。
一度はフラッシュのスイッチを霊媒の指の下に置いてブラック・クラウドに押してもらったことがある。その方が最高のシャッターチャンスが得られるからであった。
このほかに治療霊団のマロダール、タルガ―、それにウェバー氏の大おじに当たるジョン・ボーデン牧師。それからミラー博士とデール教授。この二人は主として物質化現象を担当し、その地上時代の経歴は本人から出された証拠によって確認されている。
第三章 赤外線写真
本書で紹介してある写真の撮影方法を素人流に説明すれば、およそ次の通りである。
写真はすべて赤外線を使って撮影された。赤外線を使用すると、暗闇の中でも被写体の全てが普通の照明の中で撮ったのと同じくらい鮮明に写る。
方法としては光線を通さないキャビネットの中に設置したフラッシュを閃(タ)く、というだけである。キャビネットの片側には赤外線のフィルターを取り付けてある。
バルブ sashalite bulb は一〇〇、〇〇〇から一五〇、〇〇〇ワットの光線を出す。閃光時間すなわち露出時間は 1/50 ないし 1/75 秒である。
それ程の短時間にそれほど強力な光を出しても、人間の目にはぼんやりとした弱い光にしか見えない。
カメラにはその赤外線に感光しやすいプレート(感光板)が入れてある。
赤外線がはじめて暗闇での写真撮影に使用されるようになった時、巷間ではこれで交霊会のトリックが暴かれると噂されたものであるが、現実にはウェバー氏の実験会によって物理的心霊現象の真実性が証明され、同時にそれが人間の〝死後の存続〟の証拠を提供することにもなった。
赤外線はこうした用途にはもってこいである。まず第一に、発せられる光線がエクトプラズムの物質化像その他にはほとんど害がないこと(紫外線のあるところではそうした物質化像はできない。霊媒の身体に危険だからである)。
第二に暗闇の中での写真撮影を可能にしてくれるものとしては、これまでのところこれが唯一の方法だということ。
露出時間の短いことで霊媒と列席者との間の共謀の可能性が消える。席を少し動いても知れてしまうからである。
原則として複数のカメラを各所に設置して、いろんな角度から撮影している。その他に、相応なシャッター速度のカメラを持っている人なら誰でも撮影が許された。
所載の写真の大部分は(第一章で紹介した通りの)新聞社その他諸機関からの公式の代表立ち合いのもとで、ウェバー氏の霊能養成会(ホームサークル)による写真撮影を目的とした特別実験会で撮影されたもので、撮影用の器具一切は自分のものを持参していただいた。時にはウェバー氏がかつて一度も訪れたことのない土地でも行われた。
大抵の場合、入神したウェバー氏を通じて中心的支配霊のブラック・クラウドがシャッターチャンスを知らせ、その瞬間にフラッシュの担当者がスイッチを押す。その間レンズは露出したままで、フラッシュが閃かれるのを待っている。
一度はフラッシュのスイッチを霊媒の指の下に置いてブラック・クラウドに押してもらったことがある。その方が最高のシャッターチャンスが得られるからであった。
第四章 トリックの防止措置
霊媒によるトリックを防止する措置としてずっと行ってきたのは、長さ十五フィートのロープで霊媒をウィンザー型の木製の肘かけ椅子に縛りつけるという方法である。
時にはわれわれ主催者と無関係の人から提供されたロープを使ったこともある。また短いロープを何本も使用し、その上に腕と脚をテープと紐で留めたこともある。
縛るのは出席者の誰がやってもよい。何百回にも及ぶ公開実験では、腕ききの結び職人、船乗り、警官、心霊研究家等々によって行われたことがある。
その上にさらに施した措置は、縛り上げたロープの両端を縫い合わせてエンドレスにし、さらにその継ぎ目と結び目をワックスで塗り固め、そのワックスの上に出席者から提供してもらった印章(シール)で押印したことである。
さらに、霊媒の片方の親指のつけ根のところに長さ十五インチの木綿糸、時には毛糸を結びつけ、小さな紙切れに針で穴をあけてそれを通し、もう一方の親指のつけ根に結びつけた。そうしておけば二個ないし三個の物品が浮揚した時、もし霊媒が手を使ってそれを操れば、その木綿糸や毛糸を切らずに行うことは物理的に絶対に不可能ということになる。もっとも実験には浮揚した物品どうしの距離は、たとえ両方の腕を自由に使っても届かないほど離れていた。
一九三九年にロンドン・スピリチュアル・アライアンスの会場で行った数多くの実験では、主催者のアライアンスが提供した長いロープを使用し、そのロープの使い方もあらかじめ計画してあった。
まずロープの中央を椅子の背にコマ結びにして固定し、霊媒の身体を四重巻きにし、一回ごとに椅子の背に結びつけた。また両方の上腕部を背もたれの支柱に二重にまいて結び、前腕部を肘かけに数回ぐるぐる巻きにした。そして余ったロープで両脚と踝(クルブシ)のところを椅子の全脚に固定した。最後にロープの両先端は強い糸で縫い合わされ、ワックスで塗りつぶし、シグネットリング(印章つき指輪)で押印した。
こうした場合の気づかいとして(よくするように)ロープは血行を阻害しない程度に縛られた。が、ある実験会では約二時間の実験の最中から腕と脚が腫れ上がりはじめ、終わった時にはロープが肌に食い込んでいた。そしてロープの跡が数時間のちまで残っていた。
このロンドン・スピリチュアル・アライアンスにおける実験会では実に多彩な現象が見られたが、そのうちの次の二つは紹介しておく価値があろう。
まず霊媒のウェバー氏を右と同じ要領で縛り上げ、ウェバー氏が用意してきたロープは椅子の近くに置いた。ところが実験が始まると〝見えざる手〟がそのロープを使ってウェバー氏のすぐ隣の席にいた列席者を椅子ごと縛り上げ、さらに円座の差し向かいの席まで伸びて、イスの座の部分のすぐ下のところと四本の脚のまわりを巻いて、再び元の人のところに戻り、その人をもう一度縛った。そして残りのロープはいちばん先端がどこにあるのかが判らないほどに、だんご状にまるめられた。
実験が終わってからそれを解(ほど)こうとしたが、どうしても解けないのでついに切断しなければならなかった。
もう一つは別の実験会でのことだったが、霊媒を右と同じ要領で縛り、両手を両わきの列席者が握った状態で霊媒の上着が脱がされた。そのとき分かったのであるが、霊媒の肘のあたりを巻いていたロープが、ちょうど同じ位置に付けていた腕章の下になっているのである。つまり最初ロープを巻き付けたときは上着の上にあったそのロープが、そのとき下にあった腕章のさらに下になっていたのである。
もしも同じことを普通の状態で行なうとすれば、まず縫いつけられてワックスで塗り固められたロープの先端をほどき、結び目を腕章のところまで順次ほどいていって、それを腕章の下に通し、今度は逆の順に結んでいって最後に先端を縫い合わせてワックスで固め、その上に印を押さなくてはならない。
あとで上着が元通りになった時には、ロープはちゃんと上着の上になっていた。支配霊のブラック・クラウドの説明によると、上着を脱がした時に腕章もいっしょに分解してロープの外側に再物質化したという。さらに上着を元に戻すときはロープを上着の上にもっていくために同じ操作を繰り返している。
ロープのもう一つの使い方は、霊媒が一たんロープから抜けるとそのロープが一つの輪(ループ)になってしまう方法で、霊媒一人では絶対に元通りにはできないわけである。
実験中たびたびあったことだが、ある現象の直前または直後に素早い操作を手ぎわよくやらねばならない時は白色電燈がつけられる。たとえば霊媒を縛った人がブラック・クラウドに呼ばれてロープその他が元通りか否かを確かめるように言われるなどがそれである。が、縛り方が変化していたことは一度もないし、会の終了後に見ても、それがどんな現象であっても、縛り方は初めとまったく変わりなかった。
第六章で新聞記者のコリン・エバンズ氏がその点について詳しく叙述してくれている。
が、同時に、いかに手の込んだ方法で縛り上げても、霊側が霊媒をはずそうと思えばいとも簡単であった。これは霊側が見せた驚異的現象の中でもとりわけ驚異的なものだった。
手順はこうである。まず明りをつけて霊媒が縛られている状態を確かめさせ、ロープの縛り具合と結び目を点検させ、それから明かりが消される。消したと思った瞬間に〝明かり!〟の声がする。明かりをつけてみると霊媒が円座の反対側に立っている。
その間わずか二、三秒である。見るとロープは縛った時とまったく同じ状態で、ロープとロープが交差したところもそのままで、まるでその中に霊媒がいるかのようである。
ふつう、二人の人間が一本のロープで霊媒を椅子に縛りつけるのに二分ないし四分かかり、それを解くにはそれ以上かかる。結び目に念が入ってる時はもっとかかる。
霊媒が元のイスに戻されるのもあっという間の出来ごとで、五秒ないし十秒しかかからない。まず霊媒が椅子から遠く離れた位置に立っている。明かりが消される直前に、その位置でぐるぐる旋回するのが見える。やがて明かりが消される。直後に椅子のあたりからかすかな音が聞こえる。と思った瞬間〝明かり!〟の声がする。
明かりをつけてみると椅子に霊媒が縛られている。細かく点検しても、始めに縛った時と寸分の違いも見いだせない。
似た現象でこんなケースもある。
明かりがつけられ、ロープを点検する。するとブラック・クラウドから誰か二人で霊媒の両手を押さえておくようにという要求がある。そして列席者の二人がそれぞれ霊媒の片方の手を抑えると明かりが消される。次の瞬間その押さえていた二人の手がストンと肘かけの外側に落ちる。と思うと霊媒がロープから抜けて、すっくと立ち上がる。脱け出ようとしてもがく気配がまったくないのである。
何回か、霊媒の身体が浮揚して円座の向かい側の外へ降ろされた。列席者は席を詰め、しかも隣同士で手を握り合っている。従ってそのような行動をとるためには、霊媒は一たん宙に浮いて列席者の頭上を通過しなければならないはずである。
時には浮上したまま数分間静止し、足を一人の列席者の両肩に置いた。するとブラック・クラウドがその列席者に手でその足に触ってみるようにと言う。そこでその人は霊媒の足の外側を撫でるように上へ向けて触ってみた。
そうしている間中、霊媒は頭また手、あるいはその両方で天井を激しく叩いていた。
この現象で面白いのは、霊媒が列席者の肩に乗っても全く体重を感じなかったことである。やがて霊媒は円座の外側の床の上に置かれる。
この現象は大抵実験会の終盤に起きた。そして霊媒はその置かれた場所で入神から目を覚ます──立ったままの姿勢で。そのときロープは椅子に縛られたままになっている。そこで列席者がそのロープの中に入って、霊媒が縛られたのと同じ状態になれるかどうか試したことがある。
筆者ともう一人の女性──二人ともウェバー氏より骨格は小さい──が腕と脚をロープの輪の中にいれようとしたがダメだった。かなりの時間頑張ってみたが、靴を脱いでやってみてもうまく入らなかった。
一度なんとか片腕を入れるのに成功した者がいたが、ロープの位置ずれ、上着のそでがうまく入らず、ひどいしわになった。その後の実験でも、うまく入ったことは滅多になかった。まして、上腕部のロープに腕まで入れることは通常のやり方では絶対に不可能だった。
しかも、通常のやり方でいれようとすると椅子がゴトゴトと音をたてた。従って霊媒が一瞬のうちに椅子に戻された時にかすかな音がほんの一回聞こえただけだということは注目に値しよう。
一九三九年六月には BBC から三人の代表が出席した。スタジオ外放送局長と二人の解説委員である。そしてその三人が霊媒を縛った。この時は、縛り上げたあとロープの両先端と結び目の一つ一つに木綿糸をゆわえつけ、余った糸で霊媒の片腕を肘かけごと巻いてからカフスボタンをぐるぐる巻きにし、腹部の前を通って一方のカフスボタンをぐるぐる巻きにし、さらにその腕も片方と同じように巻きつけた。
そうした状態で、しかも二人の解説委員が霊媒の両手を握っている状態で、霊媒の上着が脱がされた。脱がされた上着が床に落ちた直後に灯りがつけられ、右の二人が点検したが、木綿糸は切れていなかった。
そのあと上着が元通りに着せられたが、カフスボタンその他をつないでいる木綿糸も全く元のままだった。実験会の終わりにも局長が改めて総点検したが、すべてが元の通りであることを断言した。その時ブラック・クラウドが局長に、腹部の前を通っている糸を切ってみて下さいと言う。局長はそれをいとも簡単に切った。
これによって、もしも通常の人間的操作でやっていたら、ちょっとした身体の動きでも糸が切れていたはずであることが証明されたわけである。
このほかのトリック防止措置については後章でも言及するが、これまで紹介した措置を読まれてもなおかつ霊媒が巧妙なテクニックでロープの間を出入りしているのだと考える方のために、もう一つだけ決定的なものを紹介しておこう。
ある日の実験会で、霊媒を縛るとすぐ明かりが消された。それとほぼ時を同じくして一本ないし二本のメガホンが宙に浮いて霊媒のまわりを旋回しはじめた。旋回が終わってメガホンが床に降りた。その瞬間に〝明かり〟の声がして明かりがつけられた。
メガホンが旋回した位置は時には霊媒から数フィートも離れていたこともあり、床に降りた時の位置もかなりの距離があった。
メガホン現象の時はその置かれる位置が霊媒が縄抜けしない限り絶対に手の届かないところであるのがしばしばである。このメガホンの場合にかぎらないが、他の現象の場合でも消燈した直後に現象が始まり、終わった直後に点燈されたという事実は、現象が霊媒の操作ではなく、何か超常的な手段が使用されていることを証明するものと断定してよいであろう。
霊によるメガホンの操作は実に巧みで、その速さは正に電光石火という言葉がぴったりで、その上驚かされたのは、明かりがつけられてもまだ旋回していることがあったことである。(第六章のエバンズ氏の記述を参照されたい。)
ロープで縛る第一の目的はむろん霊媒が意識的ないし無意識に操作することを防ぐことであるが、同時に、そうすることによって霊媒が意識的にせよ無意識にせよ、あるいは詐術的にも、いっさい現象に加わっていないことを証明して、列席者を得心させる効果も有る。というのも、霊媒現象の大きな目的の一つに、われわれ人間をはるかに超えた知識をもつ目に見えぬ知的存在によって演出される超常現象を通じて、人間の死後存続の証拠を提供するということがあるからである。
さらに、赤外線照明を使用しての実験会が、人知を超えたエネルギーを使用する霊の威力を一段と強力に説明している。赤外線照明の中で物体が浮揚する現象が繰り返し観察されている。その間霊媒は椅子に縛られたままで、指一本触れていない。それなのにメガホンその他の物体が部屋中を旋回し、上下し、回転し、反転し、そのほかありとあらゆる運動を繰り広げるのである。
あるいはまた、霊媒の太陽神経叢そのほかの箇所から出て来たエクトプラズムによって強力に支えられて動くこともあった。(第十四章参照)
第五章
サンデーピクトリアル紙記者バーナード・グレイ氏のリポート
一九三九年五月二十四日の実験会の報道記事が四日後の二十八日にサンデーピクトリアル紙に二ページに渡って掲載された。その〝まえがき〟に記者のグレイ氏による次のような〝宣誓〟が載っている。
「私ことバーナード・グレイは次の通り誓います。
一、一九三九年五月二十八日付けのサンデーピクトリアル紙に〝私はこの目でこの現象を
見た〟と題し BG と署名して掲載される予定の記事の中で紹介される現象の記述がす
べて真実であること。
二、さらにその記事の中で述べられた現象が現実に私の見ている前で起きたこと。」
この宣誓は、昨日、弁護士立ち合いのもとに行われた。
───グレイ記者による記事───
私はまずロープで霊媒の手と足を椅子に縛りつけた。結び方はかつて水夫から教わったことのある二重結びも使用した。
また裁縫用の木綿糸を何本も用意して、私の目を盗んで抜け出すことがないようにロープと椅子とをその糸でつないだ。さらに霊媒の上着の打合わせ部分を太めの糸で縫い合わせた(写真No5参照)。
かくしてスピリチュアリズムの謎について私の二度目の探求が始まった。
私が縛り上げたのはジャック・ウェーバーという霊媒で、かつてウェールズで炭坑夫をしていた人である。最近その名をよく聞かされるので彼を実験対象に選んだ。
それまで聞かされたところでは、彼を通じて死後の存続を証明する驚異的な奇跡の数々──物理的心霊現象──が見られるということだった。
これは私がサンデーピクトリアルの記者となって二度目のスピリチュアリズムとの関わり合いで、私は物理的現象がお目当てである。
すなわち言葉による証言ではなく、驚異的現象による実際の証拠を得ることが目的である。病気が奇跡的に治ったとか、死者から紛れもない存続の証拠となるメッセージ受け取ったとかの証言ではない。私のような唯物的な精神構造をした人間にも得心のいく物的証拠である。
とにかく決定的な確信を得たいのである。ヒトラーだの枢軸国だの戦争の驚異だのと言った類の問題より、今の私にとってはその方がより重要なのである。編集長に少しの間だけ政治問題から離れて真理の探究に行かせてほしいと懇請したのもそのためである。
当日の出席者は私を入れて十四人。いたって平凡な話好きの人たちばかりで、それがロンドンのバラムという町の質素な部屋でそれぞれに席を取って着席した。
ロンドンのお巡りさん、エンジニア、ウェルター、郵便屋さん、配管工、それにさまざまな年齢の婦人が数人。私のすぐ隣──霊媒と私の間──に、主催者でバラム心霊研究所会長であるハリー・エドワーズ氏が着席した。本職は印刷屋である。
全員が隣同士で手を握り合った。霊媒のウェバー氏は私の結び方の許す範囲で出来るだけラクな姿勢を取った。やがて明かりが消され、部屋の中央に取り付けられた赤色電球だけが薄ぼんやりと部屋中を照らす。
現象は間髪を入れず起き始めた。そしてそれから九〇分に亙って驚くほど多彩な現象が猛烈なスピードで展開したのだった。
それを一つ一つ順を追って述べようとは思わない。というのは、次に述べる二つの驚異的現象の前には、他の全ての現象が影が薄く感じられるのである。この二つは、少なくとも私個人にとっては、新約聖書の奇跡にも匹敵すると思われる。
完全な人間の顔が部屋のいわば〝中空〟に出現した。
念のために言うが、私は霊媒から一人だけおいた位置にいる。実験が始まって一時間もたち、私の緊張も和らぎ興奮もすっかり覚めてきた。
私の精神状態は正常で冷静かつ用心深くなっている。天井近くに仕付けられた赤色ランプの異様な薄明かりにも慣れて、いかなるトリックも見逃すまいと警戒している。
部屋の片隅の、私が手を伸ばせば届くほどの位置で、霊媒が重苦しそうに呼吸しながら時おりごくりと大きな息を呑み込んだり、あたかも悪夢にうなされるかのように、うめき声を上げたりしている。
そうかと思うと、突如としてノドをガラガラっと鳴らして、もうひと踏んばり努力しようとしているかのような身振りをする。
そのうち私の前にスレートのような感じの平たい飾り板(タブレット)が浮揚してきて、その表面から光輝のある光を出しはじめた。
私は少しも動ずることなく注意深く観察した。そのタブレットは実験が始まる前に一度確認している。四枚重ねのタテ九インチ、ヨコ1フィートほどの、何の変哲もない木板であった。
そのタブレットが今度は霊媒の顔の前をゆらゆらと揺れて、その柔らかい輝きが霊媒の顔かたちを明瞭に映し出した。目を閉じ、口がひきつっているのがよくわかる。
今度はそれがゆっくりと霊媒の手の方へ降りて行き、その光で腕がちゃんと椅子に縛られているのが確認できた。
「これはあなたに霊媒が元の状態のままであることを納得させようとしてるんですよ」と隣の席のエドワーズ氏が説明する。「あっ!これから何か起きますよ。」
やがてそのタブレットは私の方へ移動してきた。そして私の顔のすぐそばまで来て静止した。あまりに近いので、思いきり息を吹きかければその輝きが消えてしまうのではないかと思えるほどだった。
「よく見て!」エドワーズ氏が私の手をぐっと握りしめながら言った。
見るとそのタブレットの上に、暗闇の中から何やら白いものが現れてきた。はじめよく見えなかったが、まるで霧の中で車のヘッドライトが近づいて来るように、その形が徐々にはっきりしてきた。そしてついに現れたのは、透明な楕円形のもので、それがタブレットの上にいわば直立しているのだった。
「エクトプラズムですよ。真ん中のところを注意して見ていてください」とエドワーズ氏が言う。
氏から言われるまでもなく私の目はそこにクギ付けになっていた。念のために強調しておくが、私はあくまで冷静で、感情を抑えていた。
さて、その楕円形の光輪の中に人間の顔のようなものがボンヤリと見えてきた。そして徐々に容貌を整え、その一つ一つが判別できるようになって来た。鼻がある。そして、紛れもない口が見える。目がちゃんと二つある。そして何と! その目が瞬(まばた)きをしている。
タブレットがさらに私の方へ近づいてきた。柔和で、そして至って自然なその目がまともに私の目とかち合っている。私はここぞとばかり身をひきしめ、冷静な好奇心を働かせて、目の前にあるものをしげしげと観察した。
それは心霊紙などで見かける心霊写真の中の霊の顔とも違っている。まわりの光輪の、この世のものと思えない不気味な白さでもない。むしろ自然な人現の顔──柔和で上品で、それでいてどこか人間とは違う感じだ。
目のあたりから頬骨にかけてその形体がはっきりと確認できる。唇、これは実に見事だ。あごはまるくて上品で、それが光輪の下の部分を背景にして黒く浮かび上がっている。
私はとっさにある一人の老婦人の顔だと直感した。その素敵なミニチュアのようだ──というのは、今思うと、普通の大人の顔よりはるかに小さかったからだ。
「お話しください」とエドワーズ氏がその顔に向かって言った。
私はその唇に注目した。少し開いたが重そうな感じがする。
何やらささやいている。何と言っているのだろうか。誰に向かって言っているのだろうか。どうやらわかった。
「マイボーイ、マイボーイ」(親しみを表わす呼びかけの言葉)という女性の声が聞き取れた。愛情たっぷりの、あるいは思いやりの情をこめた響きがあった。
「誰に言っているのでしょう?」 私は目をじっとその顔に見すえたままエドワーズ氏に尋ねた。
「あなたですよ。話しかけてごらんなさい」とエドワーズ氏が言う。
「どなたでしょうか」私はやさしい口調で聞いてみた。
「──と申します」その女性は小声で名前を告げた。その名前は公表しない。個人的なことだからである。このあと更にこう続けた。
「いつまでもこうしているわけにはまいりません。私はただ皆さんに見ていただこうと思って出てまいりました。ではご機嫌よろしく。マイボーイ。」
タブレットはその物質化像とともに移動する。円座の列席者の中をふわりふわりと動きまわる。列席者は感激しながら口々に、よく見える、はっきり見える、すばらしい、と言った。
これで、それを見たのが私一人でなかったことが分かってうれしかった。
やがてタブレットはまた私のところへ戻って来た。見るとミニチュアの容貌が消えつつある。ちょうど真夏のたそがれの中へ人影が消えて行くようである。光輪も薄れてきた。
そしてついにタブレットだけが残った。電灯が消えた時のように輝きが跡形もなくきれいに消えた。そして音をたてて私の足元に落ちた。
間髪を入れず「ライト!」の声がする。
カチッというスイッチを入れる音と共に部屋が電燈の光でいっぱいになる。列席者はみなそれぞれの席で隣どうし手を握り合っている。
そうして足もとには何の変哲もない一枚の板が落ちている。
やがて霊媒のいる片隅の方から低い声がする。霊媒の支配霊で、みんなブラック・クラウドと呼んでいる霊の声である。
「エドワーズさんの隣の席におられる男性の方、霊媒の右手を握ってください。霊媒の左の席の女性の方、左手を握ってください。」
ブラック・クラウドが言い終わるとエドワーズ氏が私の左手を彼のひざ越しに霊媒の右手の上に置いた。すると私の手の指がすごい力で握りしめられた。その力は次第に強くなり、私は手が痛くてたまらなくなってきた。私は覚悟を決めて何事が起きるかを待った。
霊媒が苦しそうな呻き声を出している。
私の握った手を今度は柔らかい繊維質のものがさするのを感じた。
「霊媒の上着です。わかりますか」と片隅から太い声がする。
「私の手の甲に何か触れているのはわかります」とすぐさま答えた。
「これからその霊媒の上着を分解して脱がせるところです」と言う。
こんどは甲の反対側を上着がさするのを感じた。やがて軽い衣(きぬ)擦れの音と共に、何かが床に落ちた。
「ライト!」という鋭い声がした。
声と同時に誰かがスイッチを入れる音がする。
見ると霊媒がシャツ姿になっている。上着がない。が、腕の上にロープが巻いてあり、結び目もはっきり見える。
ロープと椅子を結びつけた細い木綿糸も切れていない。
床の上に上着が落ちている。打合わせ部分もちゃんと縫い合わされたままである。ボタンにからませた糸もそのままである。
ライトを消すと、片隅から太い声が言う。
「これはあなたに霊界の存在と物質を分解するエネルギーがあることを証明してごらんに入れるためにやったことです。あとで上着を元通りにして見せましょう。」
三十分ほどたってから霊媒の左側にいる女性と私がもう一度霊媒の手を握るように言われた。握るとまたその上からすごい力で痛いほど握りしめられた。
布擦れの音がする。布が私のこぶしをさすっている。間違いなくさすっている。そうして今度は反対側をさすっている。
ライトがつけられた。見るとウェバー氏は元通り上着をつけている。腕をロープが巻いている。木綿糸もそのままである。結び目も木綿糸も上着の上になっている。
霊媒の左側の女性が私に
「私の手はずっと握りしめられていました。上着が私のこぶしを通り抜けて行くような感じがしました。あなたも同じだったでしょう?」と手をさすりながら尋ねた。
さて、以上の二つの現象または奇跡──どう呼んでもかまわないが──をうまく説明づけるのはいささか骨が折れる。
同じように驚くべき現象はほかにもずいぶんあった。山ほどあった。
たとえば、突然エドワーズ氏が「私の頭を手が押さえています」と、どこからともなく手が出てくるのを少しも不思議がらない様子で言う。
その直後に私も同じものを感じて「私の頭に何かが置かれています」と言った。そしてそれがエドワーズ氏の手でないことを確かめるために氏の手を強く握った。
何かが私の髪の毛をかなり強く引っぱっている。その時、その〝何か〟がまぎれもなく〝指〟であることを感じ取ってぎくりとした。しかし人間の指とはどこか違う。もっと鋭くて、どちらかと言うと爪の感じに近く、先端が金属でできているような感じである。
その時エドワーズ氏がくすっと笑った。そして、いかにも愉快そうに
「何をしようとしているのか、私には分かりますよ」と言った。
そうしているうちに、こんどはその握った髪をぐいぐいとエドワーズ氏の方へ引っぱり、私の頭とエドワーズ氏の頭とがひっついてしまった。そしてその髪をたっぷり一分ばかりかけて丹念によじっている。
「私たち二人を髪の毛で結ぼうとしていますよ」とエドワーズ氏が笑いながら言う。「あなたの髪が私の髪と編み合わされているのが分かるでしょう。」
二人はついに結びつけられてしまった!。離れようにも離れられない。そこで一たんライトをつけて解いた。その間一、二分ほど実験が中断した。
「悪いイタズラをするものですな。」他の列席者たちは二人が四苦八苦するのを見て笑いながら口々にそう言った。
確かにイタズラかもしれない。が、不可解でもある。神に誓って断言するが、髪が結ばれる前も、その最中も、そのあとも、だれ一人としてその席を立った者はいなかった。
実験中しばしば見られたのは、蛍光塗料を塗ったブリキ製のメガホン三本がまるでツバメが飛ぶような速さと正確さで部屋中を飛び交う現象だった。
人間わざでは絶対不可能であることは私の目にも明らかなのだが、思い切って私は「誰もメガホンを握っていないことを証明していただけませんか」とお願いしてみた。
するとそのうちの一本が特急のような猛スピードで私をめがけて一直線に突進してきて、あわや私のこめかみに激突するかと思ったその直前に急上昇した。私は思わず身をすくめたことだった。
同じメガホンが今度はゆっくり近づいて来て顔に触れ、さらに頭のまわりを撫でながら、人間の手で握られていないことを証明するために、まず広い口の方を私の唇に押し当て、代わってこんどは小さい口の方を押し当ててみせた。
部屋の隅のテーブルの上に置いてあった鈴が浮揚し、列席者の歌に合わせてリズミカルに音を鳴らした。
ダンスバンドのドラマーが使うのと同じ拍子木も浮揚して、同じように歌に合わせて調子をとっていた。
ルーベンと名のる背後霊の一人が力強いバスで歌の先導をした。それがレコードに録音されている。
見慣れない白熱電球の光に照らされた部屋の中で、テーブルの上に置いてあったオモチャの幾つかが浮上して天井近くを漂った。
数年前に他界した少年の霊がそのオモチャを操っているとのことだった。
テーブルの上に置いてあった何かがいきなり部屋中を突っ走った。エドワーズ氏がそれが人形であることを教えてくれた。
それがやがて一たん私のヒザの上に落ち着いてから、こんどは私の脚にそっと上がったり下りたりして愉快そうにじゃれついた。それが光って見える様子は特大のツチボタルのようだった。最後は私のヒザの上に乗った。そこでライトがつけられた。見ると、どこの子供も遊びに使うオモチャの象だった。
これでお分かりのように、実験会はおよそ無気味な集会ではなかった。時計仕掛けの機関車が天井近くを上がったり下りたりするなど、オモチャのいたずらで実に愉快な雰囲気に包まれていた。
しかしそうした愉快なオモチャの現象も、家具の浮揚現象の前には影が薄かった。
私のすぐうしろに置いてあった重いテーブルが真っすぐに上昇した。そのとき私の上着をこすって行った。そして四本の脚の一本を軽く私の肩の上に置いてから、こんどは円座の上を通り越して部屋の反対側へ行き、大きな地響きとともに床に降りた。
頭上を通り過ぎて行く様子をこの目で確かめた。赤色ランプの照明でその輪郭がはっきり見えたのである。
もちろん、いわゆる霊からの通信(メッセージ)がいくつか列席者に届けられた。が、それはここでは公表しない。私の関心はそうしたものより目に見える現象の方にあるからである。
以上が私の証言である。
私自身にはこの日の現象のどれ一つ説明できない。
しかし、この記事で述べたことは一つ一つみな真実である。
私を知る人の中には私の頭がおかしくなってしまったのではないかと思う人が多かろうと思う。が、私は敢えてもう一度断言する──ここに記した現象のすべてを私はこの目で見た、と。
第六章 心霊評論家コリン・エバンズ氏の論評
一九三九年二月二十七日月曜日、私はジャック・ウェバーによる物理実験会に出席した。自分自身の霊媒としての経験から、列席者には適度の警戒心と理知的かつ批判的態度が必要であっても、あまり度が過ぎてはいけない(そうした精神的態度から放射される意念が現象を邪魔する)ことを十分承知はしていたが、それでもその日の私はその〝適度〟の限界を超えた警戒心をもって臨んだ。
列席者の中で、霊媒と個人的に通じ合えそうな人間、あるいは(対立関係にある人からみて)霊媒と共謀詐術をしそうな人間としては、バラム心霊研究会の会長であるハリー・エドワーズ氏──今回の実験会も氏の主催による──とウェバー氏の義父(奥さんの父親)の二人であった。
そこで二人は霊媒から最も遠くはなれた位置に席を取った───エドワーズ氏は霊媒とは正反対の、部屋の端の中央、義父は同じくその正反対の側の隅で、ちょうど霊媒と対角線の位置になり、そこに電燈のスイッチがある。
その日の現象で二人に操作可能な範囲内で起きたものは一つもなかったし、かりに、いついかなる方法で座席を離れたとしても、列席者の半分の目にはとまったはずである。また二人は霊媒をロープで椅子に縛りつけたり、コートの打合わせ部分を縫い合わせたりする作業には参加していない。
私は霊媒から四つ目の、ドアのそばに席を取った。今回は(赤色光も使用せず)暗闇の中で行われた。
私は霊媒の腕と足首の縛り具合を特に念入りに調べた。二人の男性が縛ったせいで、結び目の固さとロープの締め具合はまずもって奇術的なトリックの入る余地はなく、一度抜けたら二度と元通りには戻せないと思われた。ロープは皮膚にかなり食い込んでいる。そして足首がしっかりと椅子に縛られているので、両手足とも関節から上の筋肉は絶対に動かせない。
さらに私は(それと気づかれないように)二本のロープが前腕の下で交差している部分のその交差の角度を正確に見届けておいた。かりに霊媒がその腕を抜いて再び元通りに突っ込んでも、その交差角度を正確に元のままに留めておくには、目で見ながら両手を使わなくては絶対にできない。霊媒一人では照明下でも出来ないし、他の誰かが手を貸すにしても、暗闇では不可能である。
霊媒が椅子に縛りつけられるに先立って、霊媒の上着の打合わせ部分がぴっちりと縫い合わされた。これを脱ぐためには、かりに両手が自由に使えても、まずその縫い目をほどかなくてはならない。私はその縫い目を細かく点検し、その念の入れ具合を確認した。縫い合わせた糸の余りを幾つかのボタンに巻きつけてあり、縫い目をほどこうとすれば糸が切れる仕掛けになっている。
実験の終了後、その縫い目をはさみで切りほどくのにも数分を要している。
さて、ライトを消すと同時に二本のメガホンによる最初の現象が起き始めた。〝同時に〟というのは、高速度カメラを少しばかりいじくったことのある私の判断では、十分の一秒ていどの間隔と思っていただけばよい。長さ二フィートほどのメガホンには暗闇でも見えるように蛍光塗料がたっぷりと塗ってあり霊媒が手を伸ばしても届かないところに置いてあった。
まずそのうちの一本がすごいスピードで上昇し、一瞬の間隔を置いてもう一本も上昇して、二本がいっしょに動きまわる。その動きの方向、角度、小さい方の口(ここには塗料は塗っていない)の位置、等々が他の部分に塗ってある塗料の輝きで明瞭に確認できた。
二本はまず広い方の口を上にして三フィートほど上昇し、そこで水平になり、たいてい小さい方の口を霊媒の方向へ向けて、霊媒から七、八フィートの間隔(すなわち椅子の端から広い口まで。従って小さい口までは五、六フィート)のところで自在な動きを見せる。
時にはクルリと急に向きを逆にし、広い口を霊媒の方へ向けることもあったが、これはいかなる道具を使っても人間わざでは絶対にできない芸当であった。
その間、私も含めて列席者はからだのどこかを何べんもメガホンで叩かれた。はっきりと感じるほど叩かれる。霊媒も頭と胴を叩かれた。会の後半になって十二、三フィートもある天井まで上昇して中心部を叩いたり、こんどは二本が左右に分かれて壁を叩いた。その時の両者の距離と高さを考えると、人間がたとえ自由に動いて椅子とか台を使っても、一人では絶対に出来る芸当ではなかった。
現象の途中でたびたび霊媒の支配霊から〝ライト〟の声がかかり、即座にスイッチが入れられた。明るくなった部屋でメガホンが相当なスピードで床へ向けて降下するのが見える。支えを失って落下するのではない。
そして床に降りても少しの間──ある時は三十秒ほども──軽い動きを続けている。惰性で転がっているのではない。広い口を下にしてピョンピョン跳びまわったのである。
こういう具合に、突然ライトがつけられる度に霊媒に目をやると、相変わらずロープでしっかりと縛られて、結び目もロープの交差の角度も変化がなく、入神中の霊媒によく見られるように身体をよじることもなかったことが確認された。
その状態の中で、一秒の何分の一かのスピードでメガホンが動きまわったのである。それはロープから脱け出ないかぎり絶対に不可能ななわざであった。手には何も握られていないし、遠隔操作をするための道具を隠し持っている可能性もゼロだった。
蛍光塗料を塗った二枚の飾り板(タブレット)が最初は別々に、二度目は同時に、メガホンと同じ方向へ舞い上がった。そして一度はその蛍光塗料の照明で霊媒とすぐそばの列席者が照らし出された。そのとき霊媒は完全に椅子に縛りつけられており身動き一つしなかった。こうして現象と霊媒および列席者が何の(人為的)関係もないことを示してくれたわけである。ついでに言えば、列席者は全員が隣どうし手をつなぎ合っていた。
二枚のタブレットは霊媒の椅子から四フィートの位置の空中にあり、点燈すると床に降りて平たく置かれた。消燈すると同時に、それこそ瞬間的に、上昇したことが何度かあった。これを普通の人間がやろうと思えば、即座に席を立って素早く拾いあげるか、それとも遠くからつまみ上げる器具を使用していなければならないところで、時間的にも、また全員が手をつなぎ合っていることから考えても、そんなことのできる人間はその場には一人もいなかった。
また、かりに誰かが椅子に腰かけたまま、あるいは椅子から離れて、あるいは椅子を動かして何かをしようと思えば、ちょっとした動きでも椅子の音がするはずである。しかし実験中にその種の音は一切聞かれなかったことを私は十分に確認している。
ライトを消すと同時に、霊媒のすぐそばのテーブルに置いてあったタンバリン一つと数個の鈴(すべて蛍光塗料を塗ってある)がそれぞれの音を出しながら床から七、八フィート、霊媒から六、七フィート離れた、部屋の中央あたりに浮揚し、ライトがつけられるまでその位置に留まっていた。これは他の現象と同じく何回も繰り返し起きた。
同じく蛍光塗料を塗った二つのカスタネットが部屋の中央のほぼ十フィートの高さ(天井近く)まで上昇し、その位置で約三分間列席者の歌に合わせて正確なテンポで力強く拍子をとった。ライトをつけるとその〝中空〟から床へ落ちた。
次は物質化現象であるが、実験の途中で私が霊媒の縛り具合を改めさせてもらってライトを消すと同時に、物質化した手が私の額と頬を軽く叩き、次に額と後頭部を同時に押さえ、さらに肩とひざを叩いた。私を含めて列席者は全員手をつなぎ合っている。私の両側の人も同じように叩かれたと言い、他の列席者からも次々と同じ報告があった。遠く離れた二人の列席者から同時に報告を聞かされたことが一、二度あった。
次は直接談話を伴った物質化現象で、私のよく知らない婦人──私が確実に知っているのはその人が英国人ではないこと、この実験会のレギラーで他の霊媒の交霊会にも数多く出席している人で、まず霊媒との共同詐欺などする人ではないということである──が、小さい子供の手が自分の手を握っていますと報告した。
婦人は両側の列席者と手を握り合っているので、当然、その片方の列席者(男性)の手にもそれが分かって、同じことを報告した。続いてその子供の声がして名前を告げた。
その子はその婦人の〝死んだ〟女の子で、こうして出現したのはこんどが始めてだと言う。そして婦人にそういう夭折した子がいるという事実は、霊媒のウェバー氏にも列席者の誰にも知られていなかった。
別の直接談話現象では私の二人の(他界した)友人がメガホンを使って私に話しかけてきた。二人とも絶対的といえるほどの証拠性のあるメッセージはくれなかったが、私個人は心情的に二人であることを十分確認できた。声とイントネーションの点で二人はそれぞれはっきりした特徴があり、いずれも霊媒のそれとはまったく異なるもので、いわば絶対モノマネのできる性質のものではなかった。
また声の出てくる位置が私の顔からわずか二、三インチのところで、そこまで霊媒が出てこようとすれば少なくとも左右六人の列席者には知れたはずである。メッセージの中には私の健康状態に正確に言及した部分があり、それは見て分る性質のものではなく、誰にも知られておらず、また少なくとも私の知るかぎりでは霊媒のウェバー氏も知り得ないことであった。
もう一人の婦人が、霊媒からさらに離れた位置で、私と同じようにすぐ近くから話しかけられている。その霊はフィリス・ガニングという姓名をはっきりと述べ、その婦人はこれを確認している。霊の方から名のるまでその婦人はその姓名を口にしていない。
他にも何人かの列席者が直接談話で証拠性のあるメッセージを受けている。声の質もアクセントも一人一人違っていた。
さてライトがつけられ、煌々たる光の中で霊媒の点検がなされた。ロープの縛り具合、結び目、上着の打合わせ部分の縫い目が元通りであることを確認したあと、一たんライトが消され、わずかな間を置いて再び点燈された。
見ると霊媒は相変わらず椅子に縛りつけられ、ロープに少しの乱れもない。私が密かに注目していた二本のロープが腕の下で交差している角度もそのままで、これは、たとえその縛り方が緩くて自由に腕を出し入れできても、(暗闇の中では)見ることも乱れを直すことも出来なかったであろう。
ところがその状態の中で上着が脱がされて足元に落ちているのである。打合わせ部分の縫い目を確かめたが、元のままである。
それからライトが消され、すぐまた点燈された。見ると霊媒が元通り上着を着ている。袖口も乱れていない。これは、もしも上着を着たままロープの中に突っ込んだとしたら絶対に有り得ないことだった。というのは、ロープは上着の上から相当きつく縛られていたからである。しかし、消燈して点燈するまでわずか五、六秒だった。
実験中に時おり本ものの雨、小さな冷たい雨つぶが列席者の顔にかけられた。
最後に、霊媒のすぐ斜めうしろにテーブルが置いてあり、そのすぐ前に二本のメガホンが立ててあったが、そのテーブルが部屋の中央に運ばれてきた。その間、二本のメガホンはずっと私の目に見えていて、テーブルによって遮られることがなかった。
ふつうの運び方で運ぼうとすれば当然それをもち上げなければならない。しかも、すぐ前のメガホンに当たらないようにするには五、六フィート持ち上げ、列席者の頭上を通過しなければならない。が、メガホンは揺れもせず倒れもしなかった。
以上、二時間にわたる物理的心霊現象の中で、私が懐疑的態度で厳しく観察しなかった現象は一つとしてない。しかもその全てが私に、それが本質的に完全に人間の常識を超えたものであり、そう考えるよりほかに解釈の方法がないことを得心させてくれた。
第七章 デイリー・ミラー紙記者〝カサンドラ〟のリポート
ここに紹介するのはデイリー・ミラー紙の特ダネ記者として一九三九年二月二十八日に二ページにわたって中央の大部分を飾った記事の転載である。
カサンドラというのは人事百般にわたる問題に健筆をふるっている同紙の論説委員のペンネームである。その辛辣な論評はつとに有名であるが、特にスピリチュアリズムに対しては痛烈な批判を浴びせたことが何度もある。
この時の実験会はロンドン北部のコックフォスターズ市で開かれたもので、ウェバー氏はかつてこの市には一度も来たことがなく、また出席者の中に顔見知りは一人もいなかった。
実はレオン・アイザック氏が赤外線写真を撮ってくれることになっていて、そのための装置を会場までどうやって運ぶかの問題が持ち上がっていた。たまたまその話を耳にしたカサンドラが適当な車を持っていて手を貸しましょうということになり、それがきっかけでカサンドラもついでに立ち合うことになった。という経緯がある。
つまり、お誂え向きの車を持っていたことが縁となって出席することになったわけである。
新聞記事には中央にNo20の写真が掲げてあり、その下に〝テーブルに縛りつけられトランス状態の霊媒。テーブルが床を離れ、書物が宙を飛び交う。カサンドラ出席の実験会での写真〟と言う説明がついている。
「カサンドラも度肝を抜かれた交霊実験会」という見出しの記事は次の通りである。
「スピリチュアリズムに対する懐疑心なら私は他のいかなる新聞のどの記者にも負けないつもりだし、昨今は特にその度合いが強烈になっている。とにかく私はこの問題に関するかぎり心を広く持つ気にはなれない──はっきり言えば、未知なるものを鼻であしらう徹底した偏見の持ち主なのだ。
少なくとも先週の土曜日まではそうだった。が、ぶざまな話だが、その土曜日をもってその偏見があっさりと、しかも急激に打ち砕かれ、スピリチュアリズムに対してこれまで繰り返し浴びせて来た嘲笑の言葉を撤回せざるを得なくなってしまったのである。
郊外でよく見かける普通の家の小さな部屋を想像していただけばよい。その片隅に電蓄が置いてある。中央に円形に椅子を並べ、その端の一つだけ肘かけがついている。
十二人ばかりの出席者が並んで入って来て、それぞれに席を取った。こう言っては失礼だが、セールスマンが一ばんよろこびそうな、何でもすぐに信じてしまいそうな人の集まりという印象を受けた。
ほとんど全員が、ニセの金の延べ棒にすぐ手を出しそうな、純心無垢の有難い顧客という感じだった。
全員が着席すると、霊媒が肘かけ椅子にロープで縛りつけられた。もと炭坑夫だったというウェールズ出身の青年である。私と写真家のアイザック氏の二人だけはその円座の外に立った。やがてライトが消され、われわれは一瞬のうちに未知の世界へと入って行った。
霊媒がゴロゴロと喉を鳴らしながら呼吸しはじめた。そこで一同が押し殺したような声で祈りの言葉を述べた。いよいよ会の始まりである。
一同が〝あまつ御使いよ、イエスの御名の・・・・・・〟(賛美歌)と歌い始めると、誰かが〝そろそろですよ〟と耳うちしてくれた。そして確かにメガホンが宙に舞い始めた。蛍光塗料を塗った二本のメガホンが、まるで魚が泳ぐように部屋中をゆっくりと回り始めた時は、ハートフォードシャーのコックフォスターズであることを疑った。
霊媒がいびきをかき、苦しげに呼吸している。
賛美歌が流れ、メガホンが飛び交う。
誰かがレコードをかける。それに合わせてわれわれも〝ヒナギクよ、ヒナギクよ、さあお前の返事を聞かせておくれ〟と歌う。するとメガホンが天井を叩いて拍子をとった。
鈴の音が聞こえる。
どっと笑い声が立った。そして、いささかヒステリー気味に〝みやこの外なる丘の上に〟と言う賛美歌をうたったかと思うと、続けてこんどは〝ジョン・ブラウンの遺骸〟と言う、ひどく俗っぽい歌をうたった。
〝神は愛なり〟という文字の入ったタンバリンが、どう考えても信じられないような動きを見せながら、われわれの頭上をやかましく飛び交った。
霊媒の荒々しい呼吸がまだ続いている。その位置からずっと離れたところに浮揚しているメガホンの一つがコンコンと音を出したかと思うと、その中からかすかな人間の声が聞こえて来た。子供の声だ。それが寂しげな調子ではあったが〝とても、とてもうれしい〟と言う。ほかにも何人かの声がした。
水が撒かれた。(会が始まる前には水はどこにも無かった)そして書棚から書物が抜き取られて床に落下した。
テーブルが動いた。
霊媒は相変わらず椅子に縛られたままである。
ぜんまい仕掛けの汽車が床を横切って走った。
突然、重いテーブルがゆっくり上昇しはじめた。そのすぐ横の席の人がおだやかな声で〝テーブルが無くなりました〟と言う。すかさずアイザック氏がその方角へ向けてフラッシュを閃いた───写真(No23)がそれである。
実験中霊媒は一度も席を立たなかった。これは私が誓って保証する。
上昇したテーブルが円座の中央にゴツンという大きな音を立てて降りた。その上に置いてあった書物はそのままだった。
列席者のうち誰一人としてそのテーブルに手を触れていないことを私は誓って断言する。そのテーブルはよほど頑丈な男でないと一人では持ち上げられないほどの重さがあり、私は会が終わってからそれを持ち上げてみて確かめている。
もうこうなっては、どんな皮肉を言ってもしょうがない。どんな異説を立ててみてもしょうがない。
それが何を意味するかは私には分からない。が、こうした不可思議で、いささか度肝を抜かれるような現象がこの世にあるのだということだけは確かだ。
私はその現場にいたのだ。実際にこの目で見たのだ。本当は物笑いのタネにしてやろうと思って行ったのだが・・・・・・
しかし今やその嘲笑がゆっくりと私の方へ向きを変えて来つつあるのだ。
カサンドラ(署名)」
第八章 上着の瞬間的脱着現象
度重なる実験を通じてしばしば見られた現象に、椅子にがんじがらめに縛りつけられた状態でのウェバー氏の上着の脱着がある。
トリックを防止するための処置には二通りある。一つは軽く引っぱっても切れるほどの細い木綿糸で一ばん上のボタンとそのボタン穴とを結びつける。ボタンをはずそうとすればすぐ切れる。
もう一つは上着の打合わせの部分を見返しのところから裾までピッタリと縫い合わせてしまう。縫い方もいろいろ工夫をこらし、ボタンは一つ一つぐるぐる巻きにして結ぶ。打合わせ部分をあまり上まで縫い上げすぎて、首回りがわずか六インチしかなかったことも何度かある。
その状態で、第四章で紹介した通りの要領で霊媒の身体を椅子に縛りつける。
実験が始まり、いろんな物品の浮揚現象がひとしきり見られたあと、支配霊の要求で霊媒の両わきの人が霊媒の手を握る。その直後、ほんの一、二秒後に上着が床か誰かの膝の上に落ちる音がする。と同時に〝ライト!〟の声がして照明のスイッチが入れられる。その、上着の落ちる音と照明のスイッチの音は間髪を入れずに聞かれる。
明るい照明の中で霊媒を見ると、両手は列席者によって握られている。落ちている上着を見ると縫い目に何の変化も見られない。すばやく縫い目をほどき、上着を脱ぎ、それからまた縫い合わせたのだという考えは、まさしく奇想天外というべきで、まったく有り得ないことである。
No3 とNo4 は脱がされる途中である。頭部と肩はまだ上着の中にあるが、腕はすでに上着の外になっているのが判る。これを普通の状態でやろうとすると、どうしても首のまわりに上着が寄るはずであるが、写真を見るとまったくそれが見られないところに注目すべきである。
ほかにも注目すべき点がいくつかある。まず第一に、上着が脱がされても腕の部分のロープにいささかの変化も見られないこと。第二に、脱がされてからライトがつけられるまでの間隔が瞬間的だったこと。第三に、脱がされる際に物音一つしなかったこと。
No5 は上着が完全に脱がされてこれから放り出されるところ。以上の写真を見て注目すべきことは、霊媒の頭髪が少しも乱れていないことで、いつも実験でも見られる特徴である。
No6 では霊媒の両手が握られている状態で上着が脱がされているのが見える。(霊媒の右手を握っている男性は有名な霊媒のハロルド・シャープ氏で、本実験会は氏の邸宅で行われた。)
No8 とNo9 は上着の脱着が非物質化(分解)現象によって行われている容姿を示している。襟にバッジが見える。ポケットに手紙などの物品が入っている時は、それが分解されずに足もとに落ちている。この写真については第十章でさらに詳しく解説する。
ケンブリッジ学術(リサーチ)協会のA・J・ケイス会長は一九三九年八月十二日付のサイキック・ニューズ紙に寄せた記事の中で、この非物質化による上着の脱着現象の真実性を次のように証言している。
「中でも唖然とさせられたのは、ジャック・ウェバー氏の上着が両手を縛られた状態で一瞬のうちに脱がされ、再び着せられた現象である。
私も氏の片手を握っていた一人であるが、その私の手の甲の上にクモの巣のようなものがふわりと掛かってきて、それが次第に固くなり、しまいに布状になった。重量は感じられなかった。その間わずか数秒で、そのあと床に落ちた。
そこで明かりがつけられた。見ると霊媒の上着がなくなっている。床の上着とロープの縛り具合を点検したが、打合わせ部分の縫い目もロープの結び目も前と少しも変わっていなかった。」
実験後トリニティカレッジの学部長は「そのエネルギーが何であれ、あの現象がトリックでないことは十分得心がいった」と語り、インドで数多くのオカルト現象を見ているディオ皇太子とその側近の者も「詐術説は問題にならない」と語っている。(一九三九年八月十二日付サイキック・ニューズ紙)
脱がされた上着が置かれるのはたいてい霊媒の近辺(六ないし八フィートの範囲内)である。支配霊からもう一度霊媒の手を押さえておくようにとの要請があり、これから上着を元に戻す、と言う。両わきの人が霊媒の手を押さえていると、上着がその脱ぎ捨てられた場所から浮揚する時にその手に触れることがよくある。
数秒もしないうちに〝ライト!〟の声があって明かりがつけられる。見ると霊媒はきちんと上着を着ており、ロープがその上になっている。打合わせ部分の縫い目とロープの結び目を点検すると、完全に元のままである。ここで再び所要時間が重要となるが、脱ぎ捨てられた上着が浮上しはじめて明りがつけられるまで、大抵の場合、わずか五秒である。
ここで言及しておくべき重要な事実が二つある。一つは上着が脱がされて明かりがつけられている間に霊媒の腕のロープを点検したところ、縛り方が強すぎてロープが肌に食い込み、そのあたりが腫れ上がっていたことである。
その時点で支配霊から、そのロープをずらしてみるようにという要請があったので、ほかの人といっしょにいじくってみたが、あまりにきつくて、びくともしなかった。それほどきつく縛り付けたロープの下に上着の袖を入れるのは、人間わざではまず不可能である。かりに出来たとしても相当な時間を要したであろう。
もう一つの大切な事実は、それほどきついロープの下にあっさりと上着を着け、しかも少しもシワが寄っていないということである。
この脱着現象については第四章で右と左のカフスボタンを木綿糸で結ぶなどの、トリック防止のために行った様々な措置について述べてある。
この現象をはじめて写真に撮った時(その時以来霊媒の両手を押さえることを始めた)、サイキック・ニューズ社の編集長モーリス・バーバネル氏も出席していて、その模様を次のように報告している。
「これらの写真はまさしく物理化学への挑戦である。というのは、物質科学には〝絶対に有り得ない〟ことが実在することを証明しているからである。
縛りつけたロープを貫通して上着が脱がされる───これは物質が物質を貫通したわけで、上着かロープのいずれかが分解して非物質状態になったことを意味し、物質科学が否定する心霊的法則が存在する証拠である。
物理霊媒のジャック・ウェバーはロープで椅子にしっかりと縛りつけられ、さらにその結び目を黒い木綿糸で縫いつけた。ふつうならその結び目に何らかの力が加われば糸がすぐに切れる。
またその黒糸でボタンをぐるぐる巻きにした上でボタン穴に通して結びつけた。ボタンをはずそうとすればすぐに切れるはずである。しかし実験が終了した時点で点検したところ、結び目も糸も元のままだった。
そんなわけで、上着の脱着を霊媒自身が一人でやった可能性はまったくない。列席者がやった可能性も考えられない。全員が隣の席の人と手をつなぎあっていたからである。
これは目に見えない知的存在がやったことである。それは一体何者か。
魔術説は問題にならない。いかなる魔術師もこれと同じ条件下では絶対に出来ないし、また、(たとえ条件を変えても)あのスピードでは出来ない。脱ぐのに三秒、再び着るのに六秒だった。
詐術説も問題外である。」
次に引用するのは心霊季刊誌ライトに発表された著名な心霊研究家B・A・コリンズ氏の記事の主要部分である。
「私はここで他に類を見ない説明不可能な現象を紹介したい。(略)
それはウェバー氏の上着が一瞬のうちに脱がされ、再び一瞬のうちに着せられるというもので、その重大性を認識していただくためにその過程を簡単に説明しておこうと思う。
ウェバー氏は身体にぴったりの普段着のスーツを着ている。その上着の打合わせ部分を列席者の一人がごつい糸で縫い合わせてしまう。それから椅子に腰かけると、こんどはロープで縛られる。まずロープの真ん中を椅子の背もたれに結びつけてから左右の腕と脚をそれぞれ椅子の肘かけと足に縛りつける。
左右それぞれ別の人間が行う。腕も脚もぐるぐる巻きにしながら何箇所かに結び目をつくり、最後の左右のロープの先端を結びあわせ、その結び目をさらに糸で縫いつけてから封印する。(中略)
それが完了するとウェバー氏の左右の座席の人がウェバー氏の両手を握る。すると自らを支配霊と名のるブラック・クラウドという霊がウェバー氏の口を使って、これから上着を脱がせる、という。
そこで照明が消される。そして、ほんのちょっとの間を置いてから、また明かりをつけるようにとの要請があってスイッチが入れられる。見るとウェバー氏は前と同じ格好で縛られている。が、上着がないのである。
その上着は本人の膝の上にあったりする。が、いずれにしても打合わせ部分はきちんと縫い合わされたままである。
列席者の全員が得心のいくまで点検し終わると、ブラック・クラウドが、これから上着を着せる、というので、再び左右の座席の人がウェバー氏の両手を握る。そしてライトが消される。が、すぐにブラック・クラウドからライトをつけるようにとの要求がある。
そしてライトがつく。見るとウェバー氏は相変わらず両手を押さえられた状態で椅子に腰かけているが、こんどは元通り上着を着ている。
事実そのものは疑う余地はない。すでに何百人もの人が〝目撃している〟(という言葉が適切かどうか判らないが)。私自身は右に述べたような要領で上着が脱がされたのを二度見ており、元通りに着せられるのを一度見ている。脱がされた時、ウェバー氏の両手は押さえつけられ、腕は椅子の肘かけに縛りつけられ、上着の打合わせ部分が縫いつけられている。
魔術ではない。となると一体いかなる原理で行われるのであろうか。唯一考えられる説は、上着が何らかの方法で〝分解〟されて非物質化の状態になったということである。そうしないと上着という物質がウェバー氏といいう物質を貫通したことになる。いずれにせよ、一部の人が言うように眼に見えなくなる〝擬態の上着〟などで説明できる現象ではない。
物品引寄(アポーツ)の現象も私が今述べた非物質化の説によって説明できるが、懐疑的な人はアポーツの現象そのものの真実性を認めようとしない。が、上着の脱着現象だけは否定しようにも否定できない。
他人の証言では得心できないというのなら、自分で(実験会に出席して)簡単に確認することが出来る。問題はその事実をどう説明するかである。信じようとしない人間はこれをどう説明するであろうか。
スピリチュアリズム的(霊魂が演出しているという)仮説が受け入れられないとしても、少なくとも未知のエネルギーが何らかの方法で上着を脱がせているということだけは認めるべきであろう。そしていずれ科学も物理法則によって支配されない現象が厳然と存在すること、また物的世界以外にこれまで知られなかった何かが存在することを認めざるを得なくなるであろう。
私個人としては霊媒の〝潜在意識〟の仕業などという説より〝霊魂〟(スピリット)による演出という考えの方が愚かさの程度が少ないように思えるのである。潜在意識の仕業などというのでは何の説明にもならない。上着がどういう過程で脱がされ、どういう過程で再び着せられるかと言う点がまったく解決しない。やはり人間以上の知性と能力とを具えた知的存在を想定せざるを得ないのである。(後略)
他にもこの現象を証言する記事がいくつかある。」
補 遺 一九四〇年三月
写真No7 について。この写真はウェバー氏が急死する十二日前の二月二十八日に撮ったもので、これが最後の写真となった。その前の四枚も上着の脱着現象を撮ったもので、この最後のものも同じ現象であるが、前の四枚にもまして不思議な写真で、人間的思考形体では〝不可能〟としか言いようがない。
一時期、この脱着現象や一般的物理現象を休止して、赤色光の中での物質化現象に集中したことがある。その時はメガホンと飾り板(プレート)以外の小道具を持ち込まず、上着の打合せ部分を縫い合わせることもせず、ただロープで椅子に縛りつけるだけで、途中で点検することも滅多にしなかった。
そうした中でブラック・クラウドから〝写真!〟という要請があってシャッターを切った。そのあとブラック・クラウドが言うには、上着の袖がロープの下になったまま他の部分は脱がされたものが写っているはずだという。
出来上がった写真を見ると、たとえ人間の手でやっても、一枚の上着では絶対に不可能な現像が写っている。以来これまで列席者が同じことをしてみようと試みてきたし、一般の人にも参加を呼びかけているところである。
写真を拡大して細かく点検すると、上着の柄と織地は全部同じものであることがわかる。
ご覧になればわかる通り、肘かけの上の袖はロープの下になっており、肩の部分と襟も正しい位置にあるが、上着の背中の部分が身体の前に垂れ下がっている。
ウェバー氏がこの柄の上着は一枚しか持っていないこと、その日はそれ以外の上着を持ってきていないこと、従って同じ柄で同じ織地の上着がその部屋の中に存在することは絶対に有り得ないことは私が保証する。
その写真を撮ったあと、もう一枚撮るために感光板とフラッシュのバルブを取り替えようとしているうちに〝写真!〟の声がきた。が、その時はまだ準備が完了していなかったのでチャンスを失った。その直後に上着が床に落ちるのがわかり、すぐさま照明がつけられた。そして上着を点検したが、いつもの上着のままで何の変化もなかった。
かりに人間の手で同じことを演出するとして、唯一考えられる方法は、二着の上着または同じ柄の布を別に用意することであるが、そんなことを人間の手でやったらシワが寄って見られたものではない。
心霊的に解釈した場合、上着が二つの部分に分けられ、背中の部分が襟のところから下だけ分解されて、写真に見える位置に持って来られたというのが一つの考え方である。
そんなことをウェバー氏と語り合っているうちに、ウェバー氏から、背中の部分全体が分解されて身体を貫通して(アポ―ツと同じように)前に持って来られ、そこで物質化されたのではないかという説を出した。
誰一人断定的な解釈が出来ないでいるので、私が前の説つまり背中の襟の部分から下だけが分解されて前に持って来られたという説を支持する根拠として、霊媒の下腹部に垂れ下がっているのは背中の部分の襟とつながっているところで、裏地と継ぎ目が見えるのが何よりの証拠であると主張した。
もしも人間の手で(つまり霊媒が)やったとしても、布がシワにならないようにきれいにするには、もう一人別の人間が絶対必要であり、時間も相当かかり、その上、何らかの音もでるはずであった。
あるいはもしそれがトリックだとすれば、列席者全員が加担していたことになる。なぜなら、その時の状況からして、何をしても全出席者の目に見えたからである。
同じ実験会の終わり近くに撮った写真は、ロープが交差している様子なども含めて、腕の縛り具合がこの写真No7 とまったく同じであることを示している。
かくしてわれわれは、やはり人間業を超越した、超常能力を必要とする現象の写真を目の前につきつけられているわけである。
第九章 物品引寄現象(アポ―ツ)
アポーツの過程が写真に収められたのは一回きりである。
ウェバー氏の霊媒現象の中ではアポーツそのものが非常に少ない。次に紹介するのはその写真撮影に成功した実験会の記述である。
この実験会は一九三八年十一月八日に公開で行われたもので、パディントン市にあるテンプル・オブ・トゥルース教団の会員八名も出席していた。その会長のジェームズ・シング氏の署名入りの証言を次に引用する。
〝一九三八年十一月八日のジャック・ウェバー氏による実験会における現象の報告〟
子供の背後霊パディとハリー・エドワーズ氏とのやりとり。
パディ「壁やドアを貫通して物品を引き寄せることが出来ることをお見せするために、この部屋に何か引き寄せてみたいと思います」
エドワーズ氏「ぜひ見せていただきたいですね」
パ「何かいいものがないか見てきます」
(二、三分後)
パ「隣の部屋に長い足をした小鳥がありますね」
エ「ああ、あります。あれは鶴と言う鳥で、真ちゅうで出来てるんです」
パ「あれを引き寄せてみます。霊媒の身体を通過させないといけないんです」
(二、三分後。カメラの用意も出来ている)
ブラック・クラウド「シャッターを切って!」
(シャッターを切るとほぼ時を同じくして床に物が落ちる音がする)
ブ「明かりをつけて!」
(明かりをつけて見ると例の真ちゅうの鳥が隣の部屋から運び込まれて床の上にある)
ブ「写真がうまく撮れておれば、その鳥がエクトプラズムの状態で霊媒のからだから出てくるところが写っているはずです」
すべての窓、すべてのドアがロックされ、一度も開けられなかった。
以上の現象の記述に相違ないことを証言する。
(署名)ジェームズ・シング
テンプル・オブ・トゥルース会長
その時の写真は三枚焼き付けてある(No10・No11・No36)。No10が撮影したままの写真で、太陽神経叢のあたりに例の鳥とエクトプラズムが見える。No11はその部分の拡大写真。No36は引き寄せられた鳥の実物写真。
シング氏の報告を見て分る通り、このアポ―ツ現象は前もって予告した上で行われたことに注目すべきである。
まずパディがこれからこうしようと思うと述べて確かにその通りになり、次に支配霊のブラック・クラウドが写真にはこう写っているはずだと述べて確かにその通りに写っていた。このあたりに人知を超えた法則を見えざる知的存在が運用していることを示す見事な証拠を見ることが出来る。
その真ちゅうの置き物は高さ五センチ、重さ六〇グラム足らずのものであるが、それが現実に壁とドア、もしくはそのいずれか一方を貫通して部屋から部屋へと持ち込まれたわけである。そのためには、音声がレンガ塀を通過するように、真ちゅうが固体を貫通するほどの高い波動状態に一たん分解されたに違いない。
その状態で霊媒のからだを通過し、からだから出ると同時に再び物質化されたのである。その、いよいよ体から出る瞬間のエクトプラズムの状態と言うのが、他の物質化現象の場合と同じく、この再物質化の際の最も重要な要素であることに疑問の余地はない。
物品が霊媒の身体を経て引き寄せられることを証明したこの現象は、メガホンを使用して引き寄せる他の霊媒の場合と過程は同じである。というのは、No12に見られるように、メガホンはエクトプラズムによって霊媒の身体と直結しているからである。
この場合、物品が分解された状態で霊媒の身体からさらにエクトプラズムの腕(棒)を通過してメガホンの中に入り、そこで再び物質化されるわけである。つまりメガホンがエクトプラズムのもつエネルギーの保存容器の役目と再物質化の場を提供しているわけである。
もっとも、アポーツ現象が霊媒の身体を使うというのは必ずしも全ての霊媒に当てはまらない。私自身、一九四〇年に別の霊媒の実験会に出席して、まったく違った過程によるアポーツを見ている。
その時はメガホンが、内部に何も入っていないことを列席者に確認させてから天井まで浮揚し、そこで物品(ガラスの花びん)を受け取った。支配霊の説明によると、花びんを一たん高振動の状態に変え、それをエーテル質の包みの中にいれてメガホンの中まで運び、そこで再物質化したということだった。
同じ実験で出たもう一つのアポーツは見事な彫刻の施されたシールで、それが猛スピードで部屋中を円を描いて動きまわるメガホンの中で再物質化された。最初のうちはコトコトという小さな音がしていたが、物質化が進行するにつれて次第に大きくなっていった。
話はウェバー氏の実験会に戻る。その後の実験会では二個の物品が赤色のライトの中で引き寄せられた。ウェバー氏はアポーツが出る時はその数時間前から腹部が張ってくるのが常で、それで何が起きるかが判ることがある。
その日もそうした兆候が出ていたので、実験室に入ってから、椅子にロープで縛りつけられる前に、十一人の列席者全員が見ている前で、レギラーメンバーの一人(S・クロフト氏)と首都警察(ロンドン警視庁)の代表一人に身体検査をするように依頼した。
検査が終わるとすぐその場で椅子に腰かけロープで縛られた。縛る時の様子は赤色ライトがついていたので全員に良く見えた。
やがてメガホン(複数)が浮揚して回り始め───これも赤色ライトではっきり見えた───そのうち一本が霊媒のところへ来て、大きい口の方を太陽神経叢のあたりに向けると、何かがその中に落ちるような音がした。そして今度は私のところへ来て、中のものを取り出すように言う。手に取ってみるとエジプトの飾り物だった(No36右端)。
一、二分後に再びそのメガホンが霊媒の太陽神経叢のところへ行くと、また何かが落ちる音がした。そして今度は別の列席者(S・クロフト氏)のところへ行って、中のものを取り出せと言う。取り出してみると石仏だった(No36 中央)。
これらを見れば分かるように、その大きさからして身体検査でベテランの目をごまかせるものではない。しかも十一人の列席者が見ている前で椅子に縛られ、さらに直前まで猛スピードで回転していたメガホンがスーッと霊媒のところへ来てそこで物品を受け取るのも全員が見、そして耳で聞いているのである。
右の二つのアポーツが出る時にエクトプラズムは見えなかった。これは当然であろう。というのは、実験はすべて赤色ライトのもとで行われていて、エクトプラズムがもっとも強力(つまり高波長)になった時は人間の目には見えないのである。
No36にはもう一つのアポーツ(右上)が見えるが、これは右の実験会より一週間前に行われた実験会で出たもので、この時は暗闇の中で行われ、女性の列席者(G・レイトン夫人)のドレスに直接ピン留めされ、その方にプレゼントされた。
どこの会場で行っても、時おりこうしたアポーツが出た。ある時は米国のある州の一九一五年の記念コインが出た。受け取った人(ゴードン・グレアム氏)は確かにその年にその州にいたと述べていた。同じ実験会で一人の夫人が十字架像を受け取ったが、それは別の実験会で予告されていたものだった。
この実験会には興味深いいきさつがある。実はウェバー氏と私はルートン市(ベッドフォードシャー)での別の霊媒による実験会に招待されていた。ところがその二、三時間前になってその霊媒から病気で実験に出られないとの電報が主催者のゴードン・グレアム氏のもとに届いた。グレアム氏は急きょウェバー氏に電話を入れて、代わりに霊媒になってくれるよう依頼し、それをウェバー氏が引き受けたのだった。
このように、わずか二、三時間前に急きょ霊媒の役を引き受けたのであるから、ウェバー氏には前もって策謀などする余地はなかったし、また例の十字架像を受け取った人はベッドフォードシャーの人で、グレアム氏ともウェバー氏とも一面識もなかった。
第十章 頭部の幽体写真
No8は、注目すべき驚異的な写真の一枚に数えられよう。そこに写っているのは幽体の頭部つまり霊魂の頭である。生身の人間の霊的な身体(幽体)が写真に写ったのはこれが最初である。撮影したW・H・クレイントン氏は霊魂説を信じている人ではない。
氏がその実験会に出席したのはたまたまよいカメラを所持していたからにすぎない。そのカメラはボックスタイプのもので、それがごく普通の、いささかおんぼろぎみの三脚に取り付けてあった。
この写真の重大性に鑑みて、これを撮ったクレイントン氏に操作上のミスはなかったか、また霊媒に共謀の可能性はなかったか、といった点について、これまで考察が為されてきている。
まず二重写しの可能性であるが、霊媒の身体および列席者の位置に微動だに狂いが見られないところをみれば、それはまず考えられない。白色光のもとでクレイントン氏が一枚撮って次の一枚撮るのに数分の時間の経過があることを忘れてはならない。
つまり感光板を取り出し、新しいのと入れ替え、フラッシュのバルブを取り換えるのには何分か掛かる。その上三脚が古くてガタガタしていたから、たとえ二重写しをしても、霊媒の身体の位置はこれほど正確に(重なって)は写らなかったであろう。まして列席者がその間じっと寸分違わぬ姿勢を保てたとはとても信じられない。
シャッター速度は1/50秒。クレイトン氏がシャッターを切った回数と、他の感光板に写っているものを照合すると、二重写し説は成立しない。
次に、霊媒自身の側でそういう二つのまったく別個の表情が写るように工夫したとすると、霊媒は微動だにせずに、わずか1/50秒の間に二つの表情をつくり感光させたということになる。しかもそれをフラッシュを閃くその1/50秒の一瞬を見定めて行ったことになるが、そんなことは人間わざでは絶対にできることではない。
かくしてこの二つの顔はシャッターを切った瞬間に同時にそこに存在していたと結論せざるを得ない。
ブラック・クラウドは外側の(前かがみの)顔は〝霊魂の顔〟だと言った。
外側の顔は何かという疑問に対して、これ以外に筋の通った説明は考えられない。従ってこれは霊媒の頭部の幽体に相違ないということになる。写真を拡大してさらに細かく検査しても、その説を裏づける結果が出ている。
内側の顔はウェバー氏の普段の顔ではなく、ブラック・クラウドが憑依しているために変形している。入神中は幽体が肉体から離れ、その間に支配霊が肉体をコントロールするという説を裏づけている。
外側の顔は無表情の、霊媒の素顔である。あごのところが上着の襟のところで隠されていることに注意していただきたい。これは分解された上着と幽体の顔とが同じ密度(波長)であることを示している。
顔の位置は両者ともおなじ平行線上にある。ところが目と口は完全に並んでいるのに耳だけがずれている。これは、一方が他方と一体となる際に回転運動が行われていることを示唆している。それは同時に、両者とも三次元的存在であることを意味するもので、従って肉体と幽体とは単に重なっているだけではないことをも意味している。この事実は写真が二重写しでないことをさらに裏づけている。
実はこの写真を撮った時に完全な肉体の頭は存在していない。
内側の頭部のうしろの部分は分解の途中の状態にある。透けて見えることによってそれが判る。中心に見える黒く写っている部分は二つの顔が重なったところで、そこだけが完全に正常な顔になっている。
この幽体の頭にも肉体と同じ〝広がり〟がある。そのことは幽体の頭の髪の一部が肉体の頭にかかっていることで判る。両者が一体となる際に回転運動が行われていることを考え合わせると一層理解しやすい。
この写真はもともと上着の脱着現象の際の分解の過程を写す目的で撮ったものである(第八章参照)。
それが図らずもスピリチュアリズムの霊魂説、すなわち人間には肉体のほかに幽体があって、それが死に際して肉体を離れ、〝霊〟の世界で生活するという説を裏づける結果となっている。
この写真ののちにも霊媒の身体が非物質化されることを証明する現象が何度か起きている。一つは強い赤色光の中で起きたことだが、霊媒の頭と手と腕が急に見えなくなった。すぐ近くにいた列席者の目には上着の首のところが〝穴〟になり中が空っぽに見えた。そのときすぐ隣にいたウェバー夫人は何だか気味が悪かったという。
次の晩の実験会は赤色光が弱くて前日ほど霊媒の姿がくっきりと見えなかったが、エリオット牧師とJ・W・バイアリ氏の二人がブラック・クラウドに呼ばれて、霊媒の手と腕のところを触ってみるように言われた。触って見ると、そこには何も無いのである。
袖に手を突っ込んでみたが、腕はなかった。そのあと突如として手と腕が戻った。
本章は現象をありのままに述べるに留め、詳しい解釈は施していない。写真の持つ意義と、生身の人間の幽体が写真に写ることの重大性については、述べようと思えば幾らでも述べられるところであるが。
第十一章 霊媒の浮揚現象
霊的エルギーの威力を見せつけるもう一つの現象に霊媒の浮揚現象がある。椅子に縛りつけられたまま、実験会場(部屋またはホール)の端から端へと持ち運ばれるのである。
その現象を撮影しようと何度か試みたが、ついに証拠性のあるものは得られていない。霊媒は椅子ごと持ち上げられ、中空に何分か留まり、さらに、元の位置から一ばん遠い場所に降ろされる。
時には、持ち運ばれる際に霊媒の足が円座の列席者の頭に触れてまわることがある。壁にほんのりと明るい部分があったり、カーテンを通して薄明かりが差している時などは、椅子に腰かけたままの霊媒の(浮揚している)姿が見えた。
天井の高いホールで行われた時には、その天井近くからする声だけでなく、照明用の器具が揺れるその動きによって、霊媒がそこまで浮揚していることが判った。この高さなら普通ならハシゴを使わないと届かないところである。
さらに、テーブルの浮揚現象があったあと霊媒が浮揚して、そのテーブルと列席者との間のほんのわずかな隙間に降ろされたこともある。
この霊媒の浮揚は大抵実験会の終わりごろに起きた。すでにその頃には霊媒のすぐ前の床の上には蛍光塗料を塗ったメガホンその他の小道具がところ狭しと散らかっている。この事実からも、霊媒は椅子ごとのたくってすすんだのではないことが判る。
次に紹介するのは一九三九年二月二十四日付の心霊紙ツーワールズに掲載されたJ・W・バイアリ氏の報告からの抜粋である。
「二十四人の列席者が壁を背にして着席している。白色光の明かりがついている。霊媒のウェバーは椅子にしっかりと縛られている。三フィート六インチのテーブルが中央にはすに置かれてる。列席者との間隔はやっと通れるほどしか空いていない。
その足もとあたりに蛍光塗料をぬったメガホンが置いてあり、やや私の方へ傾いている。
明かりが消された───私はそのメガホンに注目した。もしも霊媒が私の目の高さと床との間を通過すれば、メガホンから発する蛍光がさえぎられるはずである。が、霊媒が通過した様子はないし、動く音もしなかった。(私の位置は霊媒から二人目であった)
天井の方から支配霊の声がする。と同時に私の左の方で何かが床にどさっと落ちる音がする。明かりがつけられた───そこには相変わらず椅子に縛られたままの霊媒がいた。
霊媒が椅子に縛られたままのたくって移動することは絶対に不可能である。その時の状況下でそうしようとすれば、まず二フィート前進し、右に折れて三ないし四フィート進み、そこでテーブルと列席者との間を通り抜けなければならない。通り抜けようとすれば絶対テーブルか列席者に椅子が当たるはずである。
しかしその間、椅子の音は一切しなかった。もしそうやって進んだとした場合の距離は全部で十五フィートほどになるが、これを音もたてずに、しかもわずか二、三秒でやることは絶対に不可能であった。」
ウェバー氏がふだん使用している整髪料が天井に付着した跡がしばしば見られた。
No25 には思いがけない現象が写っている。浮揚現象を撮影しようとしていたところ、その〝持ち上げる力〟が逆の方向に利用されて、椅子が床に降りると同時にバリバリという、何かを破壊するような大きな音がした。ライトをつけて見ると、霊媒は無残に砕けた椅子に縛りつけられていた。
霊媒が腰かけていたウィンザー型の椅子は実にどっしりとした造りだった。座の部分の厚さが1.3インチもあったが、それが真ん中で真っ二つに割れ、四本の脚が支柱もろとも四方に引き裂かれ、肘かけが背もたれからもぎ取られていた。
霊媒が腰かけていたウィンザー型の椅子は実にどっしりとした造りだった。座の部分の厚さが1.3インチもあったが、それが真ん中で真っ二つに割れ、四本の脚が支柱もろとも四方に引き裂かれ、肘かけが背もたれからもぎ取られていた。
写真は砕かれかけた一瞬をよくとらえている。霊媒の身体にいささかの緊張感も見られないところに注目していただきたい。
一個の椅子を一瞬のうちにこれほど徹底的に破壊するのに一体どれほどのエネルギーが要るかということも一考の価値がある。力持ちが椅子を持ち上げて思い切り床に叩きつけて、はたして右に述べたような状態に破壊できるであろうか───これは大いに疑問である。
忘れてならないのは、写真をご覧になれば判る通り、その時霊媒はロープでその椅子に縛りつけられていたということである。
もちろん共謀も有り得ない。この写真もスピリットがいかに強烈な霊力(エネルギー)を出せるかをよく示している。
補 遺 一九四〇年三月
二月二十六日に国際心霊研究協会において開かれた実験でも、霊媒の椅子ごとの浮揚現象が見られた。
それが落下する際、霊媒が縛りつけられている椅子の後脚の一本が、それより先に霊媒から一ばん遠い列席者の上に浮揚していたテ-ブルの十文字の支柱の間に差し込まれた。真っ暗闇の中で、しかも音一つ出なかった。これまた人間わざでは出来るものではなく、やはり霊媒は椅子ごと宙に浮いていたことを明確に物語っている。
第十二章 テーブルの浮揚現象
No23 とNo24 はテーブルが浮揚している写真である。いずれの場合もテーブルは霊媒の位置からかなり離れている。すぐ近くのように見えるのは正面から撮ったためである。
No23 のテーブルは四五ポンド(二〇キロ)で、光沢がある。デイリー・ミラー紙の〝カサンドラ〟はこれを持ち上げるには余程の〝力持ち〟でないとだめだと言っている(第七章)。
この写真の中で霊媒が腰掛けているクッションの凹(へこ)み具合をNo21 のそれと比較してみると、前者の方が大きい。これは浮揚した物体の重量が霊媒にかかるというクロフォード博士(後注)の説を裏づけている。
No24ではサンデーピクトリアル紙のバーナード・グレイ氏の前にテーブルが見えるが、グレイ氏が前かがみになっているのは、その直前にテーブルが氏の頭部や肩のあたりで〝踊っていた〟からである。
別の実験では浮揚しているテーブルのまわりを同じく浮揚したメガホンがトントンと叩いてまわったことが何度かある。テーブルが本当に浮いていることを示すためである。
補 遺 一九四〇年三月
一九四〇年二月十九日に国際心霊研究協会で行われた実験会で起きた現象は、浮揚したテーブルがぐるぐると旋回をくり返し、こんどは列席者の頭に触れてまわり、最後に叩きつけるような勢いで床に降りて、一本の脚が折れて椅子から取れてしまった。
注 クロフォード博士 W.J.Crawford 機械工学の専門家であるが、一九一七年から四年に亙り、全員が霊媒能力を持つゴライヤ―家の六人(いわゆるゴライヤ―サークル)を実験対象とした研究で数多くの心霊法則を科学的に立証した。その一つが、浮揚物体の重量の五パーセントが霊媒にかかり、残りは列席者その他にかかるというものだった。次いでに言えば、実験会では列席者のみならず室内の装飾品までが利用されている。これについては巻末の付録「エクトプラズム」を参照されたい───訳者 |
第十三章 メガホン現象
メガホンの現象については第六章でコリン・エバンズ氏がかなり詳しく叙述している。
今や背後霊団の技術の進歩によって、メガホンの動きと照明の点滅の連動が完璧な段階にまで来ている。点滅係がブラック・クラウドからの合図を聞いてスイッチを切る直前までメガホンは激しく動きまわっている。
その位置は椅子に縛りつけられた霊媒からはるか遠くにある。照明が消えるとそれが急降下する。すごいスピードなので床に落ちてからころがっていくことが多い。それがスイッチを入れたとたんに急上昇する。どこにあっても同じである。
多い時は四本のメガホンが同時に浮揚したことがある。が、現象の素晴らしさの点から言うと二本の時がいちばん良い。二本がそれぞれ部屋の両端に位置することもあるし、一本は天井を叩き、もう一本は床を掃くように動いていることもある。その高さは、いかに背の高い人間でも届かない高さであり、二本の間隔も、いかに腕の長い人が両腕をいっぱいに広げても絶対に届く距離ではない。
くどいようであるが、霊媒は入神状態で両手両足を椅子に縛りつけられ、しかもその結び目をガムテープまたはワックスで固定されている。その状態で一秒の何分の一かの瞬間にそれだけの現象を見せるとなれば、これを霊魂(スピリット)の仕業とすることにもはや議論の余地はないと思われる。
これらの現象を赤色光の中で見るとさらに興味ぶかい。メガホンが何ものにも支えられずに空中に浮いている様子がこの目ではっきりと確かめられるからである。
そのメガホンが列席者の要求に応じていろんな動きをして見せることがある。たとえば小さい口を霊媒の方へ向けていたのを、まるで軸の上にでも乗っているかのように、くるりと一回転して広い口を霊媒の方へ向けたりする。
あるいは一人一人の列席者の頭のまわりを一周しながら全員をひとまわりしたりする。一周する時でも、最初広い口を外へ向けていたのを、ぐるりと回転しながら向きを変えたりする。
速く動く時のそのスピードは信じられないほどで、蛍光塗料の光が尾を引いて一本の光の筋を描くように見える時がある。もっと速くなると狭い部屋の中では目が付いて行けないことがある。
それほどのスピードで動く二本のメガホンが一度も衝突することなく、込み入った動きを見せる光景は、まさに驚異である。
そうした現象の起きる部屋にはシャンデリアとか電燈が下がっていることが多いが、メガホンがそのシャンデリアに当たったり電燈のコードに触れたりしたことは、それぞれ一回ずつあったきりである。もっともその時も、当たる直前にスピードが落ち、柔らかく当たっている。
また猛スピードで動くメガホンが列席者の鼻の先スレスレを通ることがあり、風を切る音が聞こえ、動いた風が肌に当たるのがわかる。度々見られた現象としては、そうやって一人の列席者の顔スレスレに通ったメガホンが、次の瞬間には反対側の端にいる別の列席者の顔をそっと撫でるようなことをして見せたことがある。その時のメガホンの扱い方は巧みさを極めている。
同じことを人間が真っ暗闇の中でやって、しかも列席者に強く当たったりすることもなく、天井からぶら下がっているものにも触れないということは、まず不可能なことである。
スピリットにしても、それだけの芸当をするにはよほどのエネルギーを費やしているに違いない。このことは、メガホンが大きく弧を描きながら床の上を掃くような動きをした時に敷物の上にはっきりとした跡が残っていることによって推察がつく。
No22 はメガホンが列席者の前を通過した時に撮ったもので、スピードがあまりに速すぎて明瞭に撮れていないので、特別これだけは輪郭を縁どってある。この時はフラッシュのボタンを霊媒の椅子の左手の肘掛けに取り付け、ブラック・クラウドが霊媒の指を使って押している。
メガホンの現象で列席者がよく心配したのは、時おりメガホンが猛烈な勢いで霊媒のところへ戻ってきて、勢いあまって頭部に激突することがあることだった。ブラック・クラウドの説明によると、それはメガホンを握っているエクトプラズムの腕(アーム)(No12~No16参照)が霊媒の身体に戻るからだという。
またある時は、理由はまだ分からないのであるが、メガホンが大きく振りをつけて、容赦なく、思い切り霊媒の頭を何度も何度も叩くのである。しっかりとしたブリキ製の、長くて重いメガホンを使用していた時にも同じ現象が起きたことがあったが、普通の人間なら間違いなく脳震盪を起こすところだった。
筆者が始めてこの現象を見た時、まさか霊媒の頭を叩いているとは信じられず、てっきり壁でも叩いているのだろうと思っていた。ところがあとで調べてみても、叩いた跡がどこにも見られなかった。
その次の実験会で筆者はブラック・クラウドに呼ばれて霊媒の後頭部に手を当てがうように言われた。言われた通りにしていると、その手の甲の上をメガホンで思い切り叩いて、いつも本当に霊媒の頭を叩いていることを示した。
注目すべきことは、そうした現象のあと、霊媒の頭に傷もコブも残っておらず、赤いアザすら見られなかったことで、これは入神状態の身体がそうした衝撃に対して鈍感であるだけでなく、細胞組織そのものが外部からの影響に〝備えている〟ものと推察される。
死体なら間違いなく傷ついてしまう。ここにもスピリットの霊力のもう一つの不思議がある。つまり、どうやってあれだけの衝撃を防ぐかということである。
このことに関して興味ぶかいのは、入神中の霊媒の脈搏を計った医師(複数)が一分間に90~100であることを確認していることである。一人の医師はこの脈搏が二時間(これが実験会の平均である)も続けば普通なら生命にかかわることも有り得ると述べていた。
呼吸回数は普通の倍であった。
二つ部分を組み合わせてあるメガホンを使用すると、時おりそれが二つにはずされ、両者が遠く離されたことがある。ある時は離された片方が列席者の円座の外に持って行かれた。やがてそれが列席者の頭越しに円座の中へ持ち込まれて二つがきれいに合わさった。こうした分離と合体は何度も見られた。
メガホンの現象については第六章でコリン・エバンズ氏がかなり詳しく叙述している。
今や背後霊団の技術の進歩によって、メガホンの動きと照明の点滅の連動が完璧な段階にまで来ている。点滅係がブラック・クラウドからの合図を聞いてスイッチを切る直前までメガホンは激しく動きまわっている。
その位置は椅子に縛りつけられた霊媒からはるか遠くにある。照明が消えるとそれが急降下する。すごいスピードなので床に落ちてからころがっていくことが多い。それがスイッチを入れたとたんに急上昇する。どこにあっても同じである。
多い時は四本のメガホンが同時に浮揚したことがある。が、現象の素晴らしさの点から言うと二本の時がいちばん良い。二本がそれぞれ部屋の両端に位置することもあるし、一本は天井を叩き、もう一本は床を掃くように動いていることもある。その高さは、いかに背の高い人間でも届かない高さであり、二本の間隔も、いかに腕の長い人が両腕をいっぱいに広げても絶対に届く距離ではない。
くどいようであるが、霊媒は入神状態で両手両足を椅子に縛りつけられ、しかもその結び目をガムテープまたはワックスで固定されている。その状態で一秒の何分の一かの瞬間にそれだけの現象を見せるとなれば、これを霊魂(スピリット)の仕業とすることにもはや議論の余地はないと思われる。
これらの現象を赤色光の中で見るとさらに興味ぶかい。メガホンが何ものにも支えられずに空中に浮いている様子がこの目ではっきりと確かめられるからである。
そのメガホンが列席者の要求に応じていろんな動きをして見せることがある。たとえば小さい口を霊媒の方へ向けていたのを、まるで軸の上にでも乗っているかのように、くるりと一回転して広い口を霊媒の方へ向けたりする。
あるいは一人一人の列席者の頭のまわりを一周しながら全員をひとまわりしたりする。一周する時でも、最初広い口を外へ向けていたのを、ぐるりと回転しながら向きを変えたりする。
速く動く時のそのスピードは信じられないほどで、蛍光塗料の光が尾を引いて一本の光の筋を描くように見える時がある。もっと速くなると狭い部屋の中では目が付いて行けないことがある。
それほどのスピードで動く二本のメガホンが一度も衝突することなく、込み入った動きを見せる光景は、まさに驚異である。
そうした現象の起きる部屋にはシャンデリアとか電燈が下がっていることが多いが、メガホンがそのシャンデリアに当たったり電燈のコードに触れたりしたことは、それぞれ一回ずつあったきりである。もっともその時も、当たる直前にスピードが落ち、柔らかく当たっている。
また猛スピードで動くメガホンが列席者の鼻の先スレスレを通ることがあり、風を切る音が聞こえ、動いた風が肌に当たるのがわかる。度々見られた現象としては、そうやって一人の列席者の顔スレスレに通ったメガホンが、次の瞬間には反対側の端にいる別の列席者の顔をそっと撫でるようなことをして見せたことがある。その時のメガホンの扱い方は巧みさを極めている。
同じことを人間が真っ暗闇の中でやって、しかも列席者に強く当たったりすることもなく、天井からぶら下がっているものにも触れないということは、まず不可能なことである。
スピリットにしても、それだけの芸当をするにはよほどのエネルギーを費やしているに違いない。このことは、メガホンが大きく弧を描きながら床の上を掃くような動きをした時に敷物の上にはっきりとした跡が残っていることによって推察がつく。
No22 はメガホンが列席者の前を通過した時に撮ったもので、スピードがあまりに速すぎて明瞭に撮れていないので、特別これだけは輪郭を縁どってある。この時はフラッシュのボタンを霊媒の椅子の左手の肘掛けに取り付け、ブラック・クラウドが霊媒の指を使って押している。
メガホンの現象で列席者がよく心配したのは、時おりメガホンが猛烈な勢いで霊媒のところへ戻ってきて、勢いあまって頭部に激突することがあることだった。ブラック・クラウドの説明によると、それはメガホンを握っているエクトプラズムの腕(アーム)(No12~No16参照)が霊媒の身体に戻るからだという。
またある時は、理由はまだ分からないのであるが、メガホンが大きく振りをつけて、容赦なく、思い切り霊媒の頭を何度も何度も叩くのである。しっかりとしたブリキ製の、長くて重いメガホンを使用していた時にも同じ現象が起きたことがあったが、普通の人間なら間違いなく脳震盪を起こすところだった。
筆者が始めてこの現象を見た時、まさか霊媒の頭を叩いているとは信じられず、てっきり壁でも叩いているのだろうと思っていた。ところがあとで調べてみても、叩いた跡がどこにも見られなかった。
その次の実験会で筆者はブラック・クラウドに呼ばれて霊媒の後頭部に手を当てがうように言われた。言われた通りにしていると、その手の甲の上をメガホンで思い切り叩いて、いつも本当に霊媒の頭を叩いていることを示した。
注目すべきことは、そうした現象のあと、霊媒の頭に傷もコブも残っておらず、赤いアザすら見られなかったことで、これは入神状態の身体がそうした衝撃に対して鈍感であるだけでなく、細胞組織そのものが外部からの影響に〝備えている〟ものと推察される。
死体なら間違いなく傷ついてしまう。ここにもスピリットの霊力のもう一つの不思議がある。つまり、どうやってあれだけの衝撃を防ぐかということである。
このことに関して興味ぶかいのは、入神中の霊媒の脈搏を計った医師(複数)が一分間に90~100であることを確認していることである。一人の医師はこの脈搏が二時間(これが実験会の平均である)も続けば普通なら生命にかかわることも有り得ると述べていた。
呼吸回数は普通の倍であった。
二つ部分を組み合わせてあるメガホンを使用すると、時おりそれが二つにはずされ、両者が遠く離されたことがある。ある時は離された片方が列席者の円座の外に持って行かれた。やがてそれが列席者の頭越しに円座の中へ持ち込まれて二つがきれいに合わさった。こうした分離と合体は何度も見られた。
第十四章 アームとロッド
本章では現象の演出のために拵えられるエクトプラズム製の道具を検討する。次章で扱ういわゆるボイスボックスもその一つと考えられるので、本章と次章を内容的に一つと考えていただきたい。
最初に明確にしておきたいのは用語である。一般に棒状のエクトプラズムをロッドと呼んでいるが、撮影に成功した写真と、実験会で実地に観察したものを検討すると、文字どおりロッド(棒)と呼んでよいものと、アーム(腕)と呼んだ方がよいものとの二種類あることがわかる。
掲載した写真に見られるのはアームの方である。
但しアームかロッドかは必ずしも明確には区別できない。というのはアームの働きをしていたものが必要に応じてロッドに早変わりするからである。
アームの機能はボイスボックスがメガホンの中とか霊媒の身体に付着して製造される際に、いわゆる〝パワーケーブル〟(送電用ケーブル)と同じ役目をすることである。
身体に付着したボイスボックスの場合は音声がそこからアームを通ってメガホンへ送られ、そこで拡声される。前に紹介したアポーツの場合も、物品が分割されて非物質の状態でこのアームを通ってメガホンへ送られ、そこで再物質化される。
これまで何回かこのアーム上のエクトプラズムに列席者が触れてみたが、柔らかくて、しなやかで、少しぬくもりがあり、生地は荒い。物体を握ることが出来る(No14参照)。
もっともメガホンのような比較的軽い物体を持ち上げる時の握りは弱い。No15ではフラッシュの一、二秒前まではメガホンを持ち上げていたのが、フラッシュを閃くと同時に列席者の向こう側の床の上に落ちている。
それだけ握りが弱いことを示している。筆者は何度か、筆者の膝の少し上に来たメガホンが写真撮影で落ちないように膝をゆっくりと上げて支えてやったことがある。
本書に掲載したエクトプラズムの写真は、R・シュナイダー氏の実験会で見られる〝吸引型〟の触角の付いた〝チューブ型〟または〝リボン型〟のエクトプラズムの確証にもなっている。
物体の浮揚現象の写真に支えのエクトプラズムが写っていないのは、フラッシュの直前に引っ込めている可能性も見落としてはならない。
アームの先端が輝いて見えたことが何度かあった。青い光の輪となって非常に強烈な輝きを見せる。それが光の〝輪〟となって中心部が暗いという点を特に強調しておきたい(次章参照)。
この現象が起きた時はそれがいつも二つ現れ、こちらが命ずるままに動いてくれる。
最初霊媒の太陽神経叢のあたりに(二つ)現れ、それが霊媒の両側へ別れ、こんどは前方へ動き、さらには霊媒の頭上へと移動する。「上へ」と言うと霊媒の頭上へ上昇し、「前へ」と言うと前方へ移動する、といった調子で言われるままに動いてみせる。
ある時はその一つが円を描きながら降りて来て、霊媒のすぐ前にあったメガホンの口のところまで来た。するとメガホンが上昇して列席者のまわりを自在に動いてまわった。その間、青い光の輪もずっとその口のところについてまわった。
そして最後にメガホンが床の上に戻ると、その光の輪だけが弧を描いて霊媒の太陽神経叢のところへ戻っていった。
このアームとは対照的な機能を果たしているのがロッドである。これは力強い動きのある時や重い物体を浮揚される時に使用されている。そして、このロッドだけは一度も写真撮影に成功していない。
その原因をブラック・クラウドはこう説明する。端的に言えばロッドはバイブレーションの高さが目に映じないほどになることが多いので写真にも写らないということであるが、仮にバイブレーションを下げて目に映じる段階まで物質化すれば、複数の光の心棒(軸)(シャフト)となって見えるであろう。
さらにバイブレーションを下げると前述のアームのように映るであろう。赤外線を照射すれば、それに伴う鈍い赤い光といっしょに、ロッドを一瞬のうちに〝溶解〟してしまう、と言う。
撮影にこそ成功していないが、列席者の〝目〟には見えたことがあることを付記しておかねばならない。
会場を変えながら開かれる実験会の中には、窓のカーテンが必ずしも完全に不透明でなくて、部屋を暗くすると外の明かりがうっすらと入ることがある。現象にとって障害とならない程度なのであるが、暗闇に慣れた目には、その灯りの前を物体が通過すると黒い影になって見える。ロッドが見えたのもそんな条件下においてだった。
力強くまっすぐに伸びた太い棒状のものが(テーブル等の)物体を支えているのが見られたのである。太さは円周が三インチほどのものから六インチほどのものまでいろいろだった。
その薄明かりの漏れる窓は明り取り用の窓であることが多く、高い位置にある。その高さを物体が横切るのであるから、そこまで届く道具を霊媒が隠し持つなどということは絶対に不可能である。
またある時は床の上に蛍光塗料を塗ったものが置いてあって、その蛍光の反射でロッドが見えたこともある。
筆者がある実験会で見たのは、蛍光塗料でほんのりと明るんでいる場所を背景にして、霊媒の位置の反対側の天井から真っすぐに床に向かって伸びているロッドだった。この時の棒(ロッド)というよりは、幅四インチほどの厚板に見えた(厚さは見当がつかなかった)。
しかし形は直線的で、まるで寸法を計ったようにきちんとしており、縁は定規のように整っていた。
また、弱い赤色光の中で列席者全員が見た現象であるが、霊媒の太陽神経叢あたりから、根元が直径八~一〇インチほどの太さの木のようなものが姿を現し、伸びるにつれて細くなり、伸び切った先端でメガホンとつながった。
本章では現象の演出のために拵えられるエクトプラズム製の道具を検討する。次章で扱ういわゆるボイスボックスもその一つと考えられるので、本章と次章を内容的に一つと考えていただきたい。
最初に明確にしておきたいのは用語である。一般に棒状のエクトプラズムをロッドと呼んでいるが、撮影に成功した写真と、実験会で実地に観察したものを検討すると、文字どおりロッド(棒)と呼んでよいものと、アーム(腕)と呼んだ方がよいものとの二種類あることがわかる。
掲載した写真に見られるのはアームの方である。
但しアームかロッドかは必ずしも明確には区別できない。というのはアームの働きをしていたものが必要に応じてロッドに早変わりするからである。
アームの機能はボイスボックスがメガホンの中とか霊媒の身体に付着して製造される際に、いわゆる〝パワーケーブル〟(送電用ケーブル)と同じ役目をすることである。
身体に付着したボイスボックスの場合は音声がそこからアームを通ってメガホンへ送られ、そこで拡声される。前に紹介したアポーツの場合も、物品が分割されて非物質の状態でこのアームを通ってメガホンへ送られ、そこで再物質化される。
これまで何回かこのアーム上のエクトプラズムに列席者が触れてみたが、柔らかくて、しなやかで、少しぬくもりがあり、生地は荒い。物体を握ることが出来る(No14参照)。
もっともメガホンのような比較的軽い物体を持ち上げる時の握りは弱い。No15ではフラッシュの一、二秒前まではメガホンを持ち上げていたのが、フラッシュを閃くと同時に列席者の向こう側の床の上に落ちている。
それだけ握りが弱いことを示している。筆者は何度か、筆者の膝の少し上に来たメガホンが写真撮影で落ちないように膝をゆっくりと上げて支えてやったことがある。
本書に掲載したエクトプラズムの写真は、R・シュナイダー氏の実験会で見られる〝吸引型〟の触角の付いた〝チューブ型〟または〝リボン型〟のエクトプラズムの確証にもなっている。
物体の浮揚現象の写真に支えのエクトプラズムが写っていないのは、フラッシュの直前に引っ込めている可能性も見落としてはならない。
アームの先端が輝いて見えたことが何度かあった。青い光の輪となって非常に強烈な輝きを見せる。それが光の〝輪〟となって中心部が暗いという点を特に強調しておきたい(次章参照)。
この現象が起きた時はそれがいつも二つ現れ、こちらが命ずるままに動いてくれる。
最初霊媒の太陽神経叢のあたりに(二つ)現れ、それが霊媒の両側へ別れ、こんどは前方へ動き、さらには霊媒の頭上へと移動する。「上へ」と言うと霊媒の頭上へ上昇し、「前へ」と言うと前方へ移動する、といった調子で言われるままに動いてみせる。
ある時はその一つが円を描きながら降りて来て、霊媒のすぐ前にあったメガホンの口のところまで来た。するとメガホンが上昇して列席者のまわりを自在に動いてまわった。その間、青い光の輪もずっとその口のところについてまわった。
そして最後にメガホンが床の上に戻ると、その光の輪だけが弧を描いて霊媒の太陽神経叢のところへ戻っていった。
このアームとは対照的な機能を果たしているのがロッドである。これは力強い動きのある時や重い物体を浮揚される時に使用されている。そして、このロッドだけは一度も写真撮影に成功していない。
その原因をブラック・クラウドはこう説明する。端的に言えばロッドはバイブレーションの高さが目に映じないほどになることが多いので写真にも写らないということであるが、仮にバイブレーションを下げて目に映じる段階まで物質化すれば、複数の光の心棒(軸)(シャフト)となって見えるであろう。
さらにバイブレーションを下げると前述のアームのように映るであろう。赤外線を照射すれば、それに伴う鈍い赤い光といっしょに、ロッドを一瞬のうちに〝溶解〟してしまう、と言う。
撮影にこそ成功していないが、列席者の〝目〟には見えたことがあることを付記しておかねばならない。
会場を変えながら開かれる実験会の中には、窓のカーテンが必ずしも完全に不透明でなくて、部屋を暗くすると外の明かりがうっすらと入ることがある。現象にとって障害とならない程度なのであるが、暗闇に慣れた目には、その灯りの前を物体が通過すると黒い影になって見える。ロッドが見えたのもそんな条件下においてだった。
力強くまっすぐに伸びた太い棒状のものが(テーブル等の)物体を支えているのが見られたのである。太さは円周が三インチほどのものから六インチほどのものまでいろいろだった。
その薄明かりの漏れる窓は明り取り用の窓であることが多く、高い位置にある。その高さを物体が横切るのであるから、そこまで届く道具を霊媒が隠し持つなどということは絶対に不可能である。
またある時は床の上に蛍光塗料を塗ったものが置いてあって、その蛍光の反射でロッドが見えたこともある。
筆者がある実験会で見たのは、蛍光塗料でほんのりと明るんでいる場所を背景にして、霊媒の位置の反対側の天井から真っすぐに床に向かって伸びているロッドだった。この時の棒(ロッド)というよりは、幅四インチほどの厚板に見えた(厚さは見当がつかなかった)。
しかし形は直線的で、まるで寸法を計ったようにきちんとしており、縁は定規のように整っていた。
また、弱い赤色光の中で列席者全員が見た現象であるが、霊媒の太陽神経叢あたりから、根元が直径八~一〇インチほどの太さの木のようなものが姿を現し、伸びるにつれて細くなり、伸び切った先端でメガホンとつながった。
そのほか数多い実験でいろんな体験をして新たな知識を得ている。たとえば部屋を動きまわっていたメガホンが霊媒から三、四番目のあたりの列席者の膝の上に一時的に静止して再び動き出した時のことであるが、手をつなぎ合っているその列席者のその手の上や膝のあたりに棒状のものが触れるのを感じたという。〝重くのしかかるような感じ〟という列席者たちの証言から判断すると、そのロッドは非常に固くて強烈な力がこもっているようである。
ロッドは強烈な力が出せる。列席者がメガホンを押しつけられて、けんめいに押し返したが、椅子の奥まで押しやられたことが何度もある。
マホガ二材で出来た二人がかりでやっと持ち上がるほどのテーブルが、部屋の隅から列席者のど真ん中へ軽く持ち込まれたことがある。
また、バラム心霊研究会で開かれた霊界の子供のためのクリスマスツリーパーティ(六十人が出席)をかねた実験会での出来ごとであるが、ツリーを厚さ四インチの板でこしらえた木わくに入れ、その木わくを八インチのクギで床に固定し、ツリーのまわりを太さ四インチの角材四本で固定し、その角材を同じく八インチのクギで木わくに打ちつけ、すき間に木材を入れるなどして徹底的に固定しておいた。
さて実験も終わりに近づき、用意したオモチャも全部使用され、楽器も演奏され、ツリーに取り付けてあったオモチャ(一〇〇個以上あった)が全部もぎ取られたあとのことであるが、そのツリーまでが木わくからもぎ取られた。木わくを固定していた床板まで反り上がったほどの勢いだった。
もぎ取られたツリーは天窓のところまで浮上し、光線をさえぎるために張ってあった茶色の紙の一部をはぎ取り、暗い満員のホールをゆっくりと降りて来て、二人の列席者の中間に置かれた。ツリーの高さは十フィートもあった。
物体をつかむ、あるいは握るのは自由自在で、一つのものを持ち上げて下ろし、すぐに次のものを取って猛烈な勢いで持ち上げる。
霊媒を椅子ごと相当な高さと距離まで持ち上げ移動させる現象も霊的エネルギーの物凄さをよく物語っている。
ロッドは物質の浮揚現象では重要な道具ではあるが、実験会での物品の動きがすべてロッドによるわけではない。そのことについては第十七章で言及する。
第十五章 ボイスボックス
本章では霊媒の発声器官でなくエクトプラズムで出来たボイスボックスからスピリットの声が聞こえる現象(直接談話現象)を検討する。もっとも、そのいずれも使用せずに声が聞こえること(独立談話現象)もある。
No16~No19 はその発声器官(ボイスボックス)を内蔵しているエクトプラズムの写真である。スピリットの説明によると、この中に霊媒の発声器官の複製品(レプリカ)が作られているという。こうしたエクトプラズムによる道具を製造するためには霊媒が完全に入神することが絶対に必要である。そしてスピリットの指示に忠実に従わなくてはならない。
他の霊媒による実験会で得られたボイスボックスの写真も形体がよく似ている。特にNo18とNo19 はこれより数年前に米国の霊媒マージャリーによる実験会で撮影されたものとそっくりである。ロンドンとニューヨークと言う海を隔てた二つの場所で、しかも時間的にも数年の間隔を置いて、二人の霊媒を通じて同種の写真が撮れたという事実は、スピリットにもその製造技術を得る共通した知識源があることを示唆していて興味ぶかい。
スピリットの声の出場所がこうしたエクトプラズム製品であることは間違いない。というのは、霊媒のすぐ近くからかすかなしゃべり声が聞こえ、それが遠くにあるメガホンから大きく拡声されて聞こえてくるのである。そのかすかな声はちょうどレコードをアンプが接続されないまま聞く、あの遠く小さく聞こえる声とよく似ている。
そのスピリットの声が霊媒のノドから出ているのではないことは、そのスピリットの声がしている最中にブラック・クラウドが霊媒の口を使ってしゃべっていることがあることで証明されよう。
さらに証拠となる現象として、ブラック・クラウドが霊媒の口を借りてしゃべっている最中に、部屋の二つの場所でスピリットと列席者との間で別々の会話が行われることがある。結局その間は三つの異なったスピリットの声が同時に聞かれるわけである。
こんな時、声が出てくるメガホンは部屋の正反対の両端に位置し、明らかにメガホンの口から出てくる。従ってエクトプラズムの発声器官はメガホンのすぐ近くか、あるいはメガホンの内部に作られていることになる。この際メガホンと霊媒とは前章で説明したロッドで支えられたアームによって連結されている。
こうした現象を直接談話現象(ダイレクトボイス)という。
これとは別に、メガホンなしで、どこからでも明瞭な声が出てくる現象もある。これを独立談話現象(インデペンデントボイス)と呼んでいる。この現象がいかなる機構のもとに演出されているかについては、いまのところ明確な手がかりになるものは得られていない。
掲載した写真ではいずれもボイスボックスが霊媒の身体に接触しているか、またはアームで連結されている。さらにこのアームがメガホンの口と連結されている。
この場合、ボイスボックスの中で発せられた声がアームを通ってメガホンへ伝達され、そこで拡声される。アームを通してどういう具合に伝達されるかはまだ結論をだすところまで行っていない。可能性として考えられることは、そのアームがチューブ(管状)になっていることである。あるいはエクトプラズムそのものが音波を伝達する性質を持っていて、それがメガホンの内部に設置された振動板のようなものによって声に変えられるのかも知れない。
アームがチューブになっているという説を裏づけるものとして、No14を見ていただけば、先端の握り手のすぐ上のところに口の形をした穴が見える。この穴からずっと管になっているように見うけられるのである。
前章でこうしたアームの先から光の輪が見られたことを述べたが、その事実もアームが管になっている証拠になっているのではないかと思われる。事実スピリットたちも〝中空(ホロー)の棒(ロッド)〟などという呼び方をすることがあるのである。
ボイスボックスによって声が出るメカニズムははっきりしている。要するに人間の発声器官とまったく同じ複製器を拵え、同時にそれを振動させるための送風機を拵えるのである。
力強い太い声がメガホンから続けて発せられると、空気を送り込む音がはっきりと聞こえる。そのリズムは発声しているスピリットの呼吸とぴったり一致している。これが歌になると一層明瞭になる。
もっとも、空気がボイスボックスへ向けて送り込まれる方法はまだ確認されていない。可能性としては (a)霊媒の身体を通して直接送られる、(b)霊媒の身体から出てアームを通して送られる、(c)霊媒の身辺から発生する、の三つが考えられる。
(c)に関連して述べておきたいのは、物理的心霊現象の際によく見られる現象として、非常に冷たい風が発生することがあることである。
信じられないほど強い風が吹くこともある。それが霊媒の身辺から発生して、時にはカーテンが水平になるほど吹き上げられることもある。その部屋の気温にしては異常なほど冷たいのが常である。従ってボイスボックスへ送られる風も同じ原理で霊媒の身辺から発生するという可能性も考えられるわけである。
しかし霊媒の身体を通過するという説の方が可能性が高い。それは、右に述べたようにスピリットが歌をうたう時などに霊媒の方から大きく息を吸い込む音が聞こえることによっても判る。
さらに物品引寄(アポーツ)現象においては物品そのものが分解されて(非物質の状態で)霊媒の身体を通過して出てくることや、エクトプラズムそのものがみな霊媒の身体から出てくることを考えると、同じ原理で空気も霊媒の身体を通して送られることが十分有り得ることである。
しかもそれはブラック・クラウドが霊媒のノドを使う上で少しも支障にはならない。ボイスボックスを使っての直接談話と、ブラック・クラウドによる霊媒のノドを使っての入神談話とが、同時に聞かれることがあることからそれが判る。
今も少し触れたが、ウェバー氏の実験会の大きな特徴の一つは、そうしてメガホンを使って、時にはメガホンを使わないでも、すばらしい歌が聞かれることである。主に賛美歌とバラードが歌われるが、背後霊の一人であるルーペン(第二章補遺参照)は声量と言い声調といいまさに一級品で、特に声量は凄い迫力があり、あまりの強さに時おり金属製のメガホンがビリビリ反響することがあるほどである。
直接談話のときはメガホンから霊媒には出せないような、まるで拡声器から出るような声になるが、声の質は明瞭で、音節が一つ一つはっきりと聞き取れる。
もしも霊媒が普通の状態でそれほど見事な歌がうたえるとしたら、こんな危険で窮屈な思いをしながら霊媒の役をやっていないで、コンサートホールに立っても立派に食べて行けるはずである。
ルーペンがその迫力ある声量で一時間も歌い続けたことがある。普通なら、いかに鍛えられた歌手でもノドが嗄(か)れ、体力も続かないところである。レコード会社のデッカが賛美歌を二曲録音したことがある。
ルーペンほどの声量はないが、子供の支配霊のパディの歌もよく聞かれる。また女性霊の豊かなコントラルト(女性の最低声域)の歌も聞かれる。この他にも何人かのスピリットの歌が聞かれる。
人間わざでは絶対できない芸当として、ルーペンとパディが一本のメガホンで二部合唱(一方は豊かなバリトン、もう一方は甲(かん)高い子供の声)を聞かせることである。その時はボイスボックスはメガホンの小さい口の方に作られる。
霊媒の位置からの距離も床からの高さも六~八フィートである。声の出る場所は霊媒でもなく、霊媒の身辺でもなく、メガホンの中である。
注目すべきことは、そのメガホンの小さい方の口は直径わずか1/2 インチで、しかも歌い終わったあとを見ると、その口が潰れて半分ふさがっているのである。そんなメガホンを使ってゆっくりと落ち着いた声で、しかも明瞭な発音で歌うことは、人間わざでは絶対できない。
ルーベンはまた音響効果についても大へんな博学ぶりを披露する。録音する時はマイクロホンの位置を指示し、声にひずみが出ない位置にメガホンをセットする。
ある実験会でH・ミラー氏が録音を担当していた時、反響効果を上げるためにツーピース(二つの部分から成る)のメガホンを用意しておいたところ、ルーペンはそれを使わず、他の何も使わずに、独立談話と同じ状態で見事な声と迫力で歌った。ルーペンほどのよく響く声を出せる人間はまずいないのではないかと思われる。
直接談話ないし独立談話によってスピリットから得た証拠性の高い通信は少なくないのであるが、ここではその内容までは言及しない。
内容以外のことについて参考になることを付記すれば、たとえばイントネーションも方言も非常に多種多様で、外国からの列席者にはその国の言語で会話が交わされた。男、女、子供の区別もはっきりしており、それぞれの会話の中にはその当事者にしか知られていないプライベートな家庭的な出来ごとが次々と出て来た。
独立談話の原理については残念ながら今もってよく判らない。この段階で言えることは、暗闇の中であっても白色光の中であっても、メガホンもボイスボックスも使用せず、それでいて実に鮮明な声が聞かれるということだけである。他の霊媒による実験会では霊媒がまったく入神していない状態でも独立談話が聞かれている。
こちらの手違いから入神中のウェバー氏が出血したことが何回かある。生命の危険があるのでライトをつけてもらって指示をあおぐのであるが、そんな時ブラック・クラウドやパディの声が霊媒から何フィートも離れたところから聞こえるのである。
こんな現象もあった。ある夜、実験会場から遠く離れたウェバー氏の自宅でパディの声がはっきりと聞こえた。しかも三つの部屋で同時に聞こえたのである。言葉も同じだったという。
補 遺 一九四〇年三月
二月十日、リンカーン市で行われた実験会でメガホンを通じてフランス語による談話が開かれた。また一月二十七日にスコットランドのセントアンドルーズ教会で行われた実験会ではスエーデン語とポルトガル語による会話と、ラテン語による朗読が行われた。スェーデン語による会話の相手をした列席者は、スピリットのスェーデン語は完璧で、一点のなまりもなかったという。
ウェバー氏は教育らしい教育はほどんと受けておらず、書物もめったに読まない。氏が読むものと言えば新聞と子供のマンガくらいのものである。
ある実験会でH・ミラー氏が録音を担当していた時、反響効果を上げるためにツーピース(二つの部分から成る)のメガホンを用意しておいたところ、ルーペンはそれを使わず、他の何も使わずに、独立談話と同じ状態で見事な声と迫力で歌った。ルーペンほどのよく響く声を出せる人間はまずいないのではないかと思われる。
直接談話ないし独立談話によってスピリットから得た証拠性の高い通信は少なくないのであるが、ここではその内容までは言及しない。
内容以外のことについて参考になることを付記すれば、たとえばイントネーションも方言も非常に多種多様で、外国からの列席者にはその国の言語で会話が交わされた。男、女、子供の区別もはっきりしており、それぞれの会話の中にはその当事者にしか知られていないプライベートな家庭的な出来ごとが次々と出て来た。
独立談話の原理については残念ながら今もってよく判らない。この段階で言えることは、暗闇の中であっても白色光の中であっても、メガホンもボイスボックスも使用せず、それでいて実に鮮明な声が聞かれるということだけである。他の霊媒による実験会では霊媒がまったく入神していない状態でも独立談話が聞かれている。
こちらの手違いから入神中のウェバー氏が出血したことが何回かある。生命の危険があるのでライトをつけてもらって指示をあおぐのであるが、そんな時ブラック・クラウドやパディの声が霊媒から何フィートも離れたところから聞こえるのである。
こんな現象もあった。ある夜、実験会場から遠く離れたウェバー氏の自宅でパディの声がはっきりと聞こえた。しかも三つの部屋で同時に聞こえたのである。言葉も同じだったという。
補 遺 一九四〇年三月
二月十日、リンカーン市で行われた実験会でメガホンを通じてフランス語による談話が開かれた。また一月二十七日にスコットランドのセントアンドルーズ教会で行われた実験会ではスエーデン語とポルトガル語による会話と、ラテン語による朗読が行われた。スェーデン語による会話の相手をした列席者は、スピリットのスェーデン語は完璧で、一点のなまりもなかったという。
ウェバー氏は教育らしい教育はほどんと受けておらず、書物もめったに読まない。氏が読むものと言えば新聞と子供のマンガくらいのものである。
第十六章 エクトプラズム
No26~No34 に見られるエクトプラズムは赤色光の中で列席者全員が肉眼で繰り返し観察している。暗闇の中での実験の場合は、発光性の飾り板(プラーク)(第五章でグレイ氏がタブレットと呼んだのと同じもの)が照明がわりに使われて、エクトプラズムが霊媒の身体から出るところなどがしばしば観察されている。
エクトプラズムが出てくる過程はこうである。まずウェバー氏がロープに縛られたまま顔が足の真上に来るまで前かがみになる。すると口から水蒸気のようなものが出はじめる。出てくると巻物を広げるように一枚に広がりながら氏の身体の前を通って床の上に降りていく。
床に垂れ落ちたあとも引き続き口から滝のように出てきて、数フート四方にものすごい量のエクトプラズムが広がる。そのスピードがまたものすごく、この間わずか数秒しか掛からない。
出たばかりの水蒸気状のものが凝結する。あるいはひとかたまりになるのに、わずか二、三秒しか掛からず、見る間に霊媒の口から織物状の物質が垂れ下がっていくといった感じである。
生地はその時の実験会の状態や霊媒自身の健康状態によってさまざまである。状態のいい時はキメがこまやかで美しいが、状態が芳しくない時はキメが粗く、No27 に見られるような裂け目が出来たりする。
筆者を始め何人かの列席者がブラック・クラウドの許可を得てその物質に手を触れたことが何度かあるが、ベトベトとまではいかないが湿り気があり、一種独特のにおいがする。
筆者は何度かその折り重なって床に落ちている織物状の物質を広げてみることを許されたが、その時は最新の用心が必要である。が、大人の私が両手で広げてもなお広げきれないほど幅が広く、ある実験会ではブラック・クラウドの許可を得てもう一人に手伝ってもらったことがある。その時は二ヤードばかりあったと思われる。
No34は列席者がエクトプラズムにさわっているところで、写真に良く映るように持ち上げなさいというブラック・クラウドの要請に従って、少し持ち上げたところである。
こうした時、列席者は傷つけないようにとひどく神経質になるもので、この写真を見てもわかる通り、二人とも片手だけでそっと持ち上げている。しかし、これだけでもエクトプラズムの長さが十分見当がつくであろう。
出て来たエクトプラズムが霊媒の体内に戻る速さもまた瞬間的である。一度は筆者がそっと握った次の瞬間、まるでゴムのようにビューンという音とともに消えてしまったことがある。
No29を撮った時は赤色ライトをつけていたので列席者全員にエクトプラズムが見えていたが、あれだけの量のものがあっという間に消えて無くなった。その直後に霊媒がゴクリと何かを呑み込むような音が聞こえた。
エクトプラズムに触れてみた人の印象は人によってまちまちである。ある人は〝きめ細かく編んだ上質の絹のようだ〟と言い、またある人は〝湿り気のある小型のバルーンのゴムみたい〟と言い、〝薄くて大きい海草〟にたとえる人もいる。
同じエクトプラズムでも、こうした固まりと、物質化像がまとうものとは組成が異なる。単なる固まりには網目(ネット)のようなパターンはない。織物というよりは皮膚に近い。物質化像がまとう垂れ布は、ゴースのようにキメが細かく、クモの糸のような軽い生地をしている。
一本の一本の繊維が十三本から十五本のさらに細かい繊維で構成されており、一つの網の目の四辺をそれぞれ四重に重ね編みしてある。その一つの網の目の大きさはピンの先ほどで、こんなものはとても人間わざでは作れない。
ブラック・クラウドから直接筆者が教わったところによると、写真に写っているエクトプラズムはみな細胞で出来ていて、神経も毛細管もあり、従って感覚もあるとのことである。
確かに、どんな形態であってもエクトプラズムはすべて霊媒の身体から出て霊媒の身体に戻っているのであるから、本質的には人体の一部であるわけで、したがって当然生き物であることになる。
次章の物質化現象で詳しく取り挙げるが、このエクトプラズムは霊界のスピリットがその姿を人間に見せるための大切な材料である。もっとも、その時のエクトプラズムの形状がどうなっているかはウェバー氏の実験では確認できていない。
物質化の過程について背後霊の一人である科学者のミラー博士はこう説明している。
まずエクトプラズムが製造されると、専門の霊が出現を希望するスピリットのエーテル体(幽体)のまわりにそのエクトプラズムを塗りつける。
その際、そのスピリットはエクトプラズムの中から物質化するために必要なエネルギーを吸収することが出来る。そうすることによって内臓までも物質化させて、地上時代とまったく同じ固さの物質をまとうことになる。それでしゃべったり歩いたりと、人間と同じことが出来るわけである。
ある実験会で、手先だけ物質化したものが赤色ランプのところへ行き、それを握って天上の掛け金からはずした。その電球には、取り付けの部分のところにスイッチがついていて、スピリットにも点滅できるようにしてあるのであるが、この時はそれを手に取ってエクトプラズムに近づけ、その半透明の生地を照らしてみせ、編んだ形跡がまったく無いところを見せた。糸状のものが見当たらず、また糸が交差したところもなかった。
発光性のプラークで照らし出されたところを見ると、そのエクトプラズムの生地はぼんやりとしていて、はっきりとした縁が確認できなかった。
同じプラークでロッドを見せてもらった時は縁がきわめて鮮明でくっきりとしており、〝関節〟のようなふくらみがいくつか見えた。そしてずっと辿っていくと、根元は太陽神経叢あたりから出ていて、その先端で物を持ち上げていた。
空中高く浮揚しているメガホンをプラークで照らして見せてくれたことがあるが、そのまわりには何の支えも見られなかった。
No26は実験が始まって二分もしないうちに撮ったもので、ウェバー氏は椅子に縛りつけられ、白色光のライトは消されたが、ルビーガラス製の赤色ランプはつけたままだった。列席者が開会の歌をうたい始めると、まだ入神していなかったウェバー氏が「顔に何かが被さっている。写真を撮ってみて下さい」というのでシャッターを切った。それがこの写真である。
白色光の中でメガホンが浮揚している写真は珍しくないが、この写真は赤色光とはいえ霊媒が入神していない〝普段のまま〟の状態の時にエクトプラズムを撮った(多分はじめてと思われる)ものである。
普段のままという点を強調したのは、ウェバー氏は自分を通じて演出される現象を見ると極端に緊張状態に陥る人で、その状態の中でこうした写真が撮れたという点に注目したいからである。
シャッターを切ったあとブラック・クラウドが〝独立談話〟で今の写真には霊媒の顔と頭にエクトプラズムが被さっているのが写っているはずだと述べた。
その時のエクトプラズムの出所は首のすぐ下あたりだった。
同じ実験のずっと後半で、何人かの列席者も霊媒の方から伸びてきたエクトプラズムで同じように頭部を被われるのを感じている。この時のメンバーはわずか七人で、その全員が、エクトプラズムが一面に広がって脚のところまで埋まってしまうところを目撃している。その時は部屋の温度の低下が著しかった。
No32は五ヤードもある長いエクトプラズムで、広角レンズでも全部は入らなかった。
補 遺 一九四〇年三月
No30 とNo31 はこの一月に筆者が撮ったもので、背後霊団が開発した新たな技術を誇っているかの如くブラック・クラウドが意外な指示をしてきた特殊な写真である。われわれが何とかして証拠性のある写真を撮りたいと苦心しているその努力に背後霊団も協力していることを示していて興味深いので、ここで解説しておきたい。
この時は筆者が撮影を担当し、チャンスがあれば白色光をつけてシャッタ-を切る準備をしていた。実験会が進行し、やがて霊媒の方からノドを鳴らすような音がしはじめた時、ブラック・クラウドから「写真とライト❢」という、今までとはまったく違う指示が出た。
ノドを鳴らす音がしはじめた時から写真のチャンスが近づいたと感じていたので、筆者はすぐさま赤外線のフラッシュのスイッチを押し、すぐその右手でシャッターを閉じ、さらに白色光のスイッチを押した。スイッチは二つとも押すだけの操作なので、両者の時間的感覚はほとんどゼロに等しかった。
実験会の始まる前からそのスイッチとカメラの位置を椅子に腰かけたままで操作できるように設置しておいたので、右の三段階の操作は瞬間的に行われ、赤外線フラッシュのスイッチを押してから白色光のスイッチを押すまでの間隔は感光板のシャッターを閉じるのみといってよく、それは、普通、二秒しか要しない。
最初に撮ったのがNo30で、赤外線フラッシュを閃(た)いた二秒後に白色光をつけた時はこのエクトプラズムは見当たらなかったから、霊媒の体内に戻る速さはまさに電光石火であることがわかる。ロープで縛りつけられた霊媒がわずか二秒の間にロープをほどいて手を使ってエクトプラズムを処理し、再び縛られた状態に戻るなどということは絶対に不可能であろう。
また列席者の誰かが握り合っている手をそっとはずしてエクトプラズムをどこかへ隠し、しかも他の列席者に知られずにいるなどということも考えられないことである。同時に、それを白色光がつけられる直前の一、二秒の間にやってしまうというのも人間わざでは考えられない。
さて、感光板を入れ替え、フラッシュのバルブを取り替えた二、三分後に再び「写真とライト!」という指示があった。その時に撮ったのがNo31である。その指示を待ち構えていたので、指示があってから前と同じ操作をするのに、この時はせいぜい一秒程度しかかからなかった。
写真を見ていただけばわかるように、エクトプラズムは大変な分量がある。これが一秒後にはすっかり消えて無くなっていたのであるから、霊媒への戻り方は一瞬のことだったわけである。
霊媒にとってこれほど厳しい条件は他に考えられないし、従って超常現象の証拠としてこれほど確実なものは考えられない。
一説として、エクトプラズムというのはチーズクロス(薄地の綿布)のような布で、それを霊媒が実験前に呑み込んでおいて、それを吐き出しそして再び呑み込むのだというのがあるが、この写真でそんな説は一蹴されよう。写真を見ても、またそれに要した時間的感覚を考えあわせても、そうした説の愚かさは明白で、これ以上コメントの必要を認めない。
実は各種の学術機関や写真教会の代表の前で同じ実験をする計画を立てていたのであるが、ウェバー氏の突然の死によってそれが実現しなかった。
そのことは確かに残念であるが、人間にまったく知られていないエネルギー、人体生理、及び霊的法則に関する知識を持ち合わせた知的存在がその裏で働いていることを、この二枚の写真が疑問の余地なく証明していることを自信をもって断言する。
第十七章 物質化現象
ウェバー氏の霊現象で最初に出た物質化現象は頭部(顔)だけの物質化で、それが発光性のプラークで照らし出された。続いて手が物質化され、列席者が見たり触ったりした。
物質化した顔をよく眺めると、目も鼻も口も髪の毛も揃っており、完全に物質化している。
大きさは普通の人間と変わらないことが多いが、時として普通よりずっと小さくて、長さ四~五インチといったものが出ることがある。
いずれにしても、頭部にはかならず頭巾のようなものが巻かれており、肩や衣服の一部まで照明が浮き上がって見える。
出現に要する時間はわずかに数秒である。プラークの照明を当てた時にはまだ出来あがっていないことがあっても、見る見るうちに容貌が整っていく。
出現する場所は霊媒の近くで、多分エクトプラズムでつながっているのであろうが、出来上がってしまうと、六フィートほどの範囲でどっちの方向でも自由に動くことが出来る。
顔が出来上がって少しすると唇が動くのが見え、続いて発声の準備運動のような音声が聞こえはじめる。やがて列席者に向かって話しかける。言葉は明瞭で、はっきりと聞き取れる。出現するのは成人の男女、子供、あるいは(霊媒または列席者の)背後霊等いろいろであるが、その区別は明確に判断できる。
列席者の物質像はいずれもしっかりしているが、霊媒の背後霊になると一段としっかりした像になり、話す声も大きく、かつ明瞭である。
出現する霊は地上時代に列席者と親しくしていた人である場合が非常に多い。
そうした人物が列席者の背後霊として働いている場合は、そうした地上時代のつながりのほかにヘアスタイルとか肌の色を見せたり母国語でしゃべったりして、身元を証明してくれる。英語以外の言語での会話がよく行われる。
頭部のケガで死亡した人の場合は包帯とか血痕を見せたりして証拠固めをしてくれる。
手先もよく物質化する。大きさはいろいろで、プラークの光を当てると、その手の特殊な特徴、たとえば指の数が足りないとか関節がコブ状に盛り上がっているとかも忠実に再現されているのがわかる。
そうした物質化像が五つも六つも出現することがある。かと思うと、たった一つだけとか、全然出現しないといったこともある。
頭部を被っている莫大な量のエクトプラズムも、顔の物質化とは別の意味で超常的能力の証拠といえる。あれだけの量のエクトプラズムを隠しもつということは如何なる人間にも至難と思われるからである。
霊媒のウェバー氏はしょっ中身体検査をされる。たとえば頭部の被いとか掛け布が異常に多い時はきまってブラック・クラウドがその会の司会者に霊媒の身体を調べるように言う。それが終わってから像が消える。
手先が出現すると列席者がさわってみることはよくあることであるが、それは完全な人間の手になっている。頑丈な男性の手もあれば小さな子供の手もある。大抵少し湿り気があるが、列席者の手より温かい。列席者は実験中、隣同士で長時間手を握り合っているので普段より温かくなっているはずであるが、それよりもさらに温かいのがつねである。
中国人の背後霊の手は中国人特有の長い爪をしているのがわかる。時には二本の手が列席者の顔や手、腕などを撫でたり、髪や髪飾りをもてあそんだりすることがある。
もう一つ興味ぶかい現象として、暗闇の中での実験会で、軽い音とともにライターがつけられた。その先で浮かび上がったのは、そのライターを手にした腕を伸ばしている一人の人物像で、霊媒の背後霊の一人だった。
その日の列席者とブラック・クラウドとの間が親密である時とか、軽率な行為によって慌てさせられる懸念がないと判断した時は、冗談めいたいたずらが行われることがある。
たとえばサンデーピクトリアル紙のバーナード・グレイ記者の髪と筆者の髪とが、軽くではあるが、結びつけられたことがある(第五章参照)。また余分のロープか紐があると、それで列席者が縛られたこともある(第四章)。
こうした事実を見てもわかるように、実験会における現象にはいつも霊媒の背後霊の部分的ないし完全な物質化像が働いているものと推察される。二つの部分から成るメガホンがつながれたり、列席者のメガネがはずされたり、あるいはクライマックス的現象として、霊媒の上着が瞬間的に脱着されるといった現象の裏には多分何人かの背後霊の物質化像の働きがあるはずだという考えを筆者は今もって捨て切れない。
現在のところ物質化現象の実験会は赤色光の中で行われているが、肉眼でも物質化像の姿がよく見えるし、さわってみることも出来るし、会話を交わすことも出来る。その間、霊媒が椅子に縛りつけられているのも見える。
物質化像が出る時はまず最初ぼんやりとした影のような形体が見える。赤色光より少し黒ずんで見える程度である。それが次第に濃くなり、手や顔をその赤色光の光線に近づけて良く見えるようにしてくれる。光源は床から九フィートばかりのところにあるが、物質化像はその高さまで浮揚して、電球のすぐ近くまで寄って顔を照明にさらしてくれる。
ルーべンとパディの二人はいとも簡単に物質化して出てくる。一度はルーベンが完全に物質化したことがある。その時ルーベンは筆者の手を取ってそれを自分の顔の前を横切らせた。同じことを他の何人かの列席者にもした。その手は非常に温かかった。列席者全員とも会話も交わした。これでその像が立派に肉体的存在であって、肺も喉頭も具わっていたことが推察される。
物質化像の温かさは興味深い問題を提供してくれる。一体その温かさはどこから生じるのであろうか。エクトプラズムそのものは湿り気があって冷たいのに、そのエクトプラズムによって構成される像が温かいのである。
一つの仮説としては、ちょうど赤外線がぬくもりをもつ理由が、それが光と熱の中間的存在だからであるとの同じで、エクトプラズムも非常に高いバイブレーションをもっていて、そのバイブレーションの状態(と言う以外に適切な用語を知らない)がぬくもりを感じさせるのではないかというのである。一応筋は通っていると思われる。
赤色光の中で物質化像が消えていくシーンも興味ぶかい。サークルの中央に位置している全身物質化像が、まるで床を突き抜けていくように、下の方から消えて行く。要する時間は約二秒で、その直後に霊媒の方からノドを鳴らす音がする。何かを呑み込むような音で、No27 ~ No34に見えるようなエクトプラズムが霊媒に戻る時の音によく似ている。
さきに紹介したように、ある実験会で天井に取り付けておいた赤色ランプをスピリットみずから取りはずして自分の顔にほとんど接触しそうになるほど近づけてみせたことがあることからも、その像(スピリット)が現実にそこにいることは疑いの余地がない。
ほどよい赤色光の中で三人の物質化像が同時に出現したことがある。二人は大人の霊で、もう一人は子供のパディで、年の頃十歳前後と思われた。
たいていの実験会にマチルダという名のもう一人の子供の霊が出現して、なわ跳びをしてみせた。そして求めに応じて速く跳んで見せたり幅跳びをしてみせたりした。
以下はサイキック・ニューズ及びツーワールズに掲載された各種のレポートからの抜粋である。
「ジャック・ウェバー氏による実験会はケンブリッジでは四回開かれた。第一回目の時は氏は会の直前にたった一人でやって来た。従って前もって打ち合わせをする余裕はまるで無かった。その会には著名な方が何人か列席していて、その中にはインドの王子(デオ殿下)、トリニティカレッジの学部長といった顔も見られた。ケンブリッジ心霊研究会から何人かが四回の実験に必ず出席した。
実験は厳格な条件のもとに行われた。ロープの縛り方にはそれこそ何の条件もなく、好きなように縛らせた。ある夜の実験会では縛り方がひどすぎるので他の列席者から〝それでは血液の循環を阻害する〟という苦情が出されたほどだったが、ウェバー氏は〝構わないからやってみて下さい〟と言った。
四回のうち三回に、物質化した顔が出現した。完全な容貌をそなえてはいたが、サイズは普通よりずっと小さかった。私にとって最も驚異的と思われたのはインド人の顔が出現して私のすぐそばまで近づき、その顔が発光性のスレート(プラーク)で照らし出された時だった。
その顔が私におじぎをした。私が〝お名前をお聞かせ下さい〟というと〝ランジです〟という。これはインドのランジ―トシンジ王子の愛称で、王子がケンブリッジ大学に在学中にクリケット選手としてその名をとどろかせた頃そう呼ばれていたのである。その在学中私は王子と特に親しくしていただいた。」
A・J・ケイス。ケンブリッジ学術協会会長
ウェバー氏の霊現象で最初に出た物質化現象は頭部(顔)だけの物質化で、それが発光性のプラークで照らし出された。続いて手が物質化され、列席者が見たり触ったりした。
物質化した顔をよく眺めると、目も鼻も口も髪の毛も揃っており、完全に物質化している。
大きさは普通の人間と変わらないことが多いが、時として普通よりずっと小さくて、長さ四~五インチといったものが出ることがある。
いずれにしても、頭部にはかならず頭巾のようなものが巻かれており、肩や衣服の一部まで照明が浮き上がって見える。
出現に要する時間はわずかに数秒である。プラークの照明を当てた時にはまだ出来あがっていないことがあっても、見る見るうちに容貌が整っていく。
出現する場所は霊媒の近くで、多分エクトプラズムでつながっているのであろうが、出来上がってしまうと、六フィートほどの範囲でどっちの方向でも自由に動くことが出来る。
顔が出来上がって少しすると唇が動くのが見え、続いて発声の準備運動のような音声が聞こえはじめる。やがて列席者に向かって話しかける。言葉は明瞭で、はっきりと聞き取れる。出現するのは成人の男女、子供、あるいは(霊媒または列席者の)背後霊等いろいろであるが、その区別は明確に判断できる。
列席者の物質像はいずれもしっかりしているが、霊媒の背後霊になると一段としっかりした像になり、話す声も大きく、かつ明瞭である。
出現する霊は地上時代に列席者と親しくしていた人である場合が非常に多い。
そうした人物が列席者の背後霊として働いている場合は、そうした地上時代のつながりのほかにヘアスタイルとか肌の色を見せたり母国語でしゃべったりして、身元を証明してくれる。英語以外の言語での会話がよく行われる。
頭部のケガで死亡した人の場合は包帯とか血痕を見せたりして証拠固めをしてくれる。
手先もよく物質化する。大きさはいろいろで、プラークの光を当てると、その手の特殊な特徴、たとえば指の数が足りないとか関節がコブ状に盛り上がっているとかも忠実に再現されているのがわかる。
そうした物質化像が五つも六つも出現することがある。かと思うと、たった一つだけとか、全然出現しないといったこともある。
頭部を被っている莫大な量のエクトプラズムも、顔の物質化とは別の意味で超常的能力の証拠といえる。あれだけの量のエクトプラズムを隠しもつということは如何なる人間にも至難と思われるからである。
霊媒のウェバー氏はしょっ中身体検査をされる。たとえば頭部の被いとか掛け布が異常に多い時はきまってブラック・クラウドがその会の司会者に霊媒の身体を調べるように言う。それが終わってから像が消える。
手先が出現すると列席者がさわってみることはよくあることであるが、それは完全な人間の手になっている。頑丈な男性の手もあれば小さな子供の手もある。大抵少し湿り気があるが、列席者の手より温かい。列席者は実験中、隣同士で長時間手を握り合っているので普段より温かくなっているはずであるが、それよりもさらに温かいのがつねである。
中国人の背後霊の手は中国人特有の長い爪をしているのがわかる。時には二本の手が列席者の顔や手、腕などを撫でたり、髪や髪飾りをもてあそんだりすることがある。
もう一つ興味ぶかい現象として、暗闇の中での実験会で、軽い音とともにライターがつけられた。その先で浮かび上がったのは、そのライターを手にした腕を伸ばしている一人の人物像で、霊媒の背後霊の一人だった。
その日の列席者とブラック・クラウドとの間が親密である時とか、軽率な行為によって慌てさせられる懸念がないと判断した時は、冗談めいたいたずらが行われることがある。
たとえばサンデーピクトリアル紙のバーナード・グレイ記者の髪と筆者の髪とが、軽くではあるが、結びつけられたことがある(第五章参照)。また余分のロープか紐があると、それで列席者が縛られたこともある(第四章)。
こうした事実を見てもわかるように、実験会における現象にはいつも霊媒の背後霊の部分的ないし完全な物質化像が働いているものと推察される。二つの部分から成るメガホンがつながれたり、列席者のメガネがはずされたり、あるいはクライマックス的現象として、霊媒の上着が瞬間的に脱着されるといった現象の裏には多分何人かの背後霊の物質化像の働きがあるはずだという考えを筆者は今もって捨て切れない。
現在のところ物質化現象の実験会は赤色光の中で行われているが、肉眼でも物質化像の姿がよく見えるし、さわってみることも出来るし、会話を交わすことも出来る。その間、霊媒が椅子に縛りつけられているのも見える。
物質化像が出る時はまず最初ぼんやりとした影のような形体が見える。赤色光より少し黒ずんで見える程度である。それが次第に濃くなり、手や顔をその赤色光の光線に近づけて良く見えるようにしてくれる。光源は床から九フィートばかりのところにあるが、物質化像はその高さまで浮揚して、電球のすぐ近くまで寄って顔を照明にさらしてくれる。
ルーべンとパディの二人はいとも簡単に物質化して出てくる。一度はルーベンが完全に物質化したことがある。その時ルーベンは筆者の手を取ってそれを自分の顔の前を横切らせた。同じことを他の何人かの列席者にもした。その手は非常に温かかった。列席者全員とも会話も交わした。これでその像が立派に肉体的存在であって、肺も喉頭も具わっていたことが推察される。
物質化像の温かさは興味深い問題を提供してくれる。一体その温かさはどこから生じるのであろうか。エクトプラズムそのものは湿り気があって冷たいのに、そのエクトプラズムによって構成される像が温かいのである。
一つの仮説としては、ちょうど赤外線がぬくもりをもつ理由が、それが光と熱の中間的存在だからであるとの同じで、エクトプラズムも非常に高いバイブレーションをもっていて、そのバイブレーションの状態(と言う以外に適切な用語を知らない)がぬくもりを感じさせるのではないかというのである。一応筋は通っていると思われる。
赤色光の中で物質化像が消えていくシーンも興味ぶかい。サークルの中央に位置している全身物質化像が、まるで床を突き抜けていくように、下の方から消えて行く。要する時間は約二秒で、その直後に霊媒の方からノドを鳴らす音がする。何かを呑み込むような音で、No27 ~ No34に見えるようなエクトプラズムが霊媒に戻る時の音によく似ている。
さきに紹介したように、ある実験会で天井に取り付けておいた赤色ランプをスピリットみずから取りはずして自分の顔にほとんど接触しそうになるほど近づけてみせたことがあることからも、その像(スピリット)が現実にそこにいることは疑いの余地がない。
ほどよい赤色光の中で三人の物質化像が同時に出現したことがある。二人は大人の霊で、もう一人は子供のパディで、年の頃十歳前後と思われた。
たいていの実験会にマチルダという名のもう一人の子供の霊が出現して、なわ跳びをしてみせた。そして求めに応じて速く跳んで見せたり幅跳びをしてみせたりした。
以下はサイキック・ニューズ及びツーワールズに掲載された各種のレポートからの抜粋である。
「ジャック・ウェバー氏による実験会はケンブリッジでは四回開かれた。第一回目の時は氏は会の直前にたった一人でやって来た。従って前もって打ち合わせをする余裕はまるで無かった。その会には著名な方が何人か列席していて、その中にはインドの王子(デオ殿下)、トリニティカレッジの学部長といった顔も見られた。ケンブリッジ心霊研究会から何人かが四回の実験に必ず出席した。
実験は厳格な条件のもとに行われた。ロープの縛り方にはそれこそ何の条件もなく、好きなように縛らせた。ある夜の実験会では縛り方がひどすぎるので他の列席者から〝それでは血液の循環を阻害する〟という苦情が出されたほどだったが、ウェバー氏は〝構わないからやってみて下さい〟と言った。
四回のうち三回に、物質化した顔が出現した。完全な容貌をそなえてはいたが、サイズは普通よりずっと小さかった。私にとって最も驚異的と思われたのはインド人の顔が出現して私のすぐそばまで近づき、その顔が発光性のスレート(プラーク)で照らし出された時だった。
その顔が私におじぎをした。私が〝お名前をお聞かせ下さい〟というと〝ランジです〟という。これはインドのランジ―トシンジ王子の愛称で、王子がケンブリッジ大学に在学中にクリケット選手としてその名をとどろかせた頃そう呼ばれていたのである。その在学中私は王子と特に親しくしていただいた。」
A・J・ケイス。ケンブリッジ学術協会会長
サイキック・ニューズ 一九三九年八月十二日付所載。(第八章参照)
「私にとって最も驚異的だったのは二つの顔が出現した時だった。床から発光性のプラークが浮揚してきて、私の顔の二、三インチ前まで来た。するとその中から、二インチほどの幅の輝く物質のかたまりによって一部を隠された、一人の女性の顔が現れた。
年の頃四十から五十の間と推察された。サイズは普通の 3/4 より少し大きい程度で、生身よりは小さかった。それが私のすぐ目の前に現れプラークの光で照らされたので、その容貌のきめ細かさをじっくりと確かめることが出来た。特に注目したのは目と鼻の穴で、石膏またはそれに類するもので彫刻したみたいに、完璧な形をしていた。
その顔は確かに固体で出来ていた。立体感があった。人間の肌色をしていなかったが、明らかに生きていた。〝何かおっしゃってください〟───宙に浮いているプラークの上に乗って漂っているその顔に向かって私は思い切って言ってみた。
すると唇が動いて何やら言おうとするのであるが、こうした時によく聞かれるというカチカチという妙な音がするだけで言葉にならない。が、そのうち言葉が出るようになり、こう言った。
〝今はもう痛みはありません・・・・・・昔みたいに苦しい思いはしません・・・・・・素敵でしょう・・・・・・お母さん〟そういうなりプラークが後方へ下がり、やがて顔が消えた。
その女性の顔は容貌の彫りの深さが特に目立った──まるでギリシャ彫刻を見るようだった。肌にシワがなかったことが一層その印象を強めたのかも知れない。容貌は確かに大人の女性のそれだったが、どこか若々しさが感じられた。プラークの照明のせいで目もとが少しかげって見えた。
従って眼球まで物質化していたかどうかの断定は難しかったが、その間ずっと───ほぼ数分間──私の目の前に静止していた。決して眼球の無い眼窩だけではなかった。
その少しあとに二つ目の顔が表れ、同じくプラークに照らし出されて私の顔から二、三インチのところまで接近してきた。
こんどのは逞しい男性の容貌をしており、頭にはエジプト人特有のかぶりものが見えた。高いローマ鼻(ワシ鼻よりおだやか)が顔全体に厳しさを感じさせた。そしてその目が──私が見たかぎりでは──突きさすように私の目を見つめていた。
顔の色は最初出た女性の顔と違って浅黒い感じだった。深く食い込んだシワが表情を厳しくしており、アゴと口の形が強烈な個性を物語っていた。その顔が私の前で何度もおじぎをした。その時私の目にとまったのは、かぶりものの真ん中あたりから突き出ている何やら三角柱の形をしたもので、おじぎをすると額にその影が映った。
列席者の何人かがしきりに〝髪〟のことをささやき合っていて、その三角柱の突き出ものに気づいていない様子だったが、その根もとはかぶりものの中にあって、頂上は頭上はるか高いところまで伸びていた。
それだけが別の物質で出来ているようで、明らかにそれを見せようという意図が見うけられた。そこで私がそのことに言及すると、わずかの間私の前に留まってからあとずさりし、そして消えていった。
それも私が見たかぎりでは固体で出来ていて、立体的だった。そして最初に出た顔より生身の感じがありありとしており、大きさも普通に近く、また最初の物質化像がしゃべる前に能面のような表情だったのに比べ、これには表情があった。
言うまでもないことであるが、その二つの顔に似た顔をした人は列席者の中にはいなかった。あとで知ったことだが、頭部の三角柱の突き出ものは古代エジプトの聖職者や寺院の役人がしていたもので、階級(ランク)を象徴していたという。これで私に向かって何度もおじぎをしていた意図がわかった。」
ツーワールズ特派員・一九三九年一月二十七日付
「実験会が進むうちに発光性のプラークの明かりの中に五つの顔が出現した。そしてわれわれの顔のわずか一インチのところまで接近した。大きさは普通の顔のせいぜい半分くらいだった。それぞれが自分の名前を言い、背後霊であると述べたが、いずれもウェバー氏の知らない名前だった。」
W・H・グレイサー。ツーワールズ一九三九・三・三所載
「それから三つの顔が物質化して出現し、私の目の前の二、三インチのところまで近づいた。その大きさはジャック・ウェバー氏の顔より明らかに小さかった。」
S・C・カーター。同前
補 遺 一九四〇年三月
「私にとって最も驚異的だったのは二つの顔が出現した時だった。床から発光性のプラークが浮揚してきて、私の顔の二、三インチ前まで来た。するとその中から、二インチほどの幅の輝く物質のかたまりによって一部を隠された、一人の女性の顔が現れた。
年の頃四十から五十の間と推察された。サイズは普通の 3/4 より少し大きい程度で、生身よりは小さかった。それが私のすぐ目の前に現れプラークの光で照らされたので、その容貌のきめ細かさをじっくりと確かめることが出来た。特に注目したのは目と鼻の穴で、石膏またはそれに類するもので彫刻したみたいに、完璧な形をしていた。
その顔は確かに固体で出来ていた。立体感があった。人間の肌色をしていなかったが、明らかに生きていた。〝何かおっしゃってください〟───宙に浮いているプラークの上に乗って漂っているその顔に向かって私は思い切って言ってみた。
すると唇が動いて何やら言おうとするのであるが、こうした時によく聞かれるというカチカチという妙な音がするだけで言葉にならない。が、そのうち言葉が出るようになり、こう言った。
〝今はもう痛みはありません・・・・・・昔みたいに苦しい思いはしません・・・・・・素敵でしょう・・・・・・お母さん〟そういうなりプラークが後方へ下がり、やがて顔が消えた。
その女性の顔は容貌の彫りの深さが特に目立った──まるでギリシャ彫刻を見るようだった。肌にシワがなかったことが一層その印象を強めたのかも知れない。容貌は確かに大人の女性のそれだったが、どこか若々しさが感じられた。プラークの照明のせいで目もとが少しかげって見えた。
従って眼球まで物質化していたかどうかの断定は難しかったが、その間ずっと───ほぼ数分間──私の目の前に静止していた。決して眼球の無い眼窩だけではなかった。
その少しあとに二つ目の顔が表れ、同じくプラークに照らし出されて私の顔から二、三インチのところまで接近してきた。
こんどのは逞しい男性の容貌をしており、頭にはエジプト人特有のかぶりものが見えた。高いローマ鼻(ワシ鼻よりおだやか)が顔全体に厳しさを感じさせた。そしてその目が──私が見たかぎりでは──突きさすように私の目を見つめていた。
顔の色は最初出た女性の顔と違って浅黒い感じだった。深く食い込んだシワが表情を厳しくしており、アゴと口の形が強烈な個性を物語っていた。その顔が私の前で何度もおじぎをした。その時私の目にとまったのは、かぶりものの真ん中あたりから突き出ている何やら三角柱の形をしたもので、おじぎをすると額にその影が映った。
列席者の何人かがしきりに〝髪〟のことをささやき合っていて、その三角柱の突き出ものに気づいていない様子だったが、その根もとはかぶりものの中にあって、頂上は頭上はるか高いところまで伸びていた。
それだけが別の物質で出来ているようで、明らかにそれを見せようという意図が見うけられた。そこで私がそのことに言及すると、わずかの間私の前に留まってからあとずさりし、そして消えていった。
それも私が見たかぎりでは固体で出来ていて、立体的だった。そして最初に出た顔より生身の感じがありありとしており、大きさも普通に近く、また最初の物質化像がしゃべる前に能面のような表情だったのに比べ、これには表情があった。
言うまでもないことであるが、その二つの顔に似た顔をした人は列席者の中にはいなかった。あとで知ったことだが、頭部の三角柱の突き出ものは古代エジプトの聖職者や寺院の役人がしていたもので、階級(ランク)を象徴していたという。これで私に向かって何度もおじぎをしていた意図がわかった。」
ツーワールズ特派員・一九三九年一月二十七日付
「実験会が進むうちに発光性のプラークの明かりの中に五つの顔が出現した。そしてわれわれの顔のわずか一インチのところまで接近した。大きさは普通の顔のせいぜい半分くらいだった。それぞれが自分の名前を言い、背後霊であると述べたが、いずれもウェバー氏の知らない名前だった。」
W・H・グレイサー。ツーワールズ一九三九・三・三所載
「それから三つの顔が物質化して出現し、私の目の前の二、三インチのところまで近づいた。その大きさはジャック・ウェバー氏の顔より明らかに小さかった。」
S・C・カーター。同前
補 遺 一九四〇年三月
二月に行われた実験会でブラック・クラウドが床に白い粉をまいておくように言ってきた。言われたようにした。赤色光の中で霊媒の姿と白い粉がくっきりと見えた。その日に出現した物質化霊はその白い粉を背景にして、いつもより見やすかったが、会の終了後に調べたところ、白い粉の上に何の跡形もなかった。これで物質化像は床に触れないで〝浮いていた〟ことが証明された。
物質化霊が滑るような動きをすることは他の物理霊媒の実験会でも話題になることであるが、その日の実験会で確かに床に触れていないことが確認されたわけである。それは同時に別の興味ぶかい課題も提供している。
物質化像は少なくとも出現している間は物質をまとっているのに、なぜ引力の作用を受けないのかということである。
No35は同じく二月にサウスロンドン新聞社のために特別に催された実験会で筆者が撮影したもので、この時はそこの編集員二人と他にもう一人が代表として出席していた。
写真は完全な形をした手が太陽神経叢から出てくる(と思われる)ところである。この時の実験会ではもう一枚、二人の列席者が霊媒の両手を押さえ、上着が脱がされているところの写真(No6によく似ている)が得られ、そこの新聞にも掲載された。
実験会に参加した新聞社は例外なく実験の真実性を称える記事を載せているが、サウスロンドン社も同じで、大変賞賛した記事を載せていた。
新聞関係の人は大体において心霊に関しては懐疑的な人間が多く、ことに物理現象については極端に批判的で、〝トリックを暴いてやろう〟といった態度で実験会に臨むものである。ところがその報告記事には一つとして現象の真実性に疑惑を投げかけたものが無く、筆を揃えて当惑と驚きをあからさまに表明し、有りのままを報告しているということは注目に値しよう。
第十八章 心霊紙の記事から
本章では英国の二大心霊紙サイキック・ニューズとツーワールズから関連記事を抜粋して紹介しておく。
「バーミンガムにおける実験会で二六本のバラの花が引き寄せられた二六人の列席者に一本ずつ配られた。ドアも窓も締め切ったままだった。(出席者が二六人であることは花が配られるまで分からなかった)」
サイキック・ニューズ一九三九・七・八付
「バークベックにおける実験会で珍しい現象が見られた。カギをかけたピアノの蓋の上に水の入ったボールを置き、レコードプレーヤーのキャビネットの上には水差しを置いておいた。しかも両方とも霊媒からはるか手の届かない位置にあったにもかかわらず、ウェバーの背後霊はちゃんとそのプレーヤーのターンテーブルにレコードを置いてその曲をかけ、ピアノも弾いてみせた」
同前
「他界した数人の知人が列席者に名前を呼んで話しかけ、一人一人が生前の間柄を正確に述べた。
二度目に出席したとき私は母親を連れて行った。そのことはウェバー氏には内緒にしておいた。にもかかわらず他界した父が生前と同じ呼び方で母に話しかけた。その声といい物の言い方といい、間違いなく生前の父それであった。それがあまりに歴然としていたので、それまで懐疑的だった母も即座に父であることを認めた」
ツーワールズ 一九三九・三・三付
「その日、霊媒を縛ったのは郵便局の技術師だった。(中略)幼くして死んだ私の息子が話しかけてきた。メガホンは使ったり使わなかったりだった。そのあと私の顔から五インチも離れていないところに物質化して出て来て(中略)ママに話したいことがあると言ってから〝瓶〟の話を持ち出した。
〝何の瓶?〟と妻が聞くと
〝覚えてないの? 柩の中のボクの手に握らせたじゃない?〟と言った。
それを聞いて妻はどっと泣きくずれた。そこで私が
〝その時どこにいたの?〟と聞くと
〝ママのそばに立っていたよ〟といった。
瓶のことは知らなかったので、あとで妻に聞いたところ、葬儀の前の日に香の瓶を握らせたとのことだった」
同前
「・・・・・・ウェバー氏の椅子からかなり離れたところで浮いているメガホンで話しかけて来た声が他界した父であることは疑いなかった・・・・・・。父の声には特徴があり、間違えることはまずなかった。三つの大学で教えた知的職業人であり教養人であった。それが言葉にも声にもしゃべり方にも抑揚にもはっきりと出ていた。それにひきかえウェバー氏は肉体労働者のしゃべり方であり、田舎くさいところがあった」
同前
「ブラック・クラウドが霊媒を分解してみせると言った。すると赤色光の中で私たちが見てる目の前で、霊媒の頭部と腕と手が消えて無くなり、椅子にはただ衣服だけが残っていた。その状態が約一分間続いた。そして、みんなが見守る中で、その消えた部分がみるみる表れてきた」
同前
第十九章 出席者による危険行為
ウェバー氏は公開実験会及び霊能開発のためのホームサークルを、合わせて、一年間にほぼ二百回も催している。霊能を磨くためのホームサークルへの出席を拒んだことは一度もない。背後霊団が赤色光の中で霊の威力を示し、物質化像を出現させ、そのための技術をあれこれと試してみたのはじつにそのホームサークルにおいてであった。
こうした実験会にありがちな事故の危険性から霊媒を守るために、ありとあらゆる注意が払われた。しかし、二百回もの回数を重ねるうちには、やはり何度か事故が起きている。
決して故意にではないのであるが、エクトプラズムのアームまたはロッドによって支えられている物品にうっかり人為的な力を加えてしまうことがままある。
たとえば、これはホームサークルでの出来ごとであるが、四本のメガホンが浮揚現象を展開中に、そのうちの一本が一時的に一人の列席者の肩とか膝の上に来た時に、その人がうっかりそのメガホンを動かしたことがある。その時、霊媒は口と鼻から出血していた。
また、これは故意にやったのであるが、誰かが照明のスイッチを入れたことがある。すると霊媒は太陽神経叢のあたりから出血した。その時は出血の程度が軽かったらしくて現象が続行されたが、こうした場合は即刻中止となるのが普通である。
そうした身体への危害のために霊媒が長時間にわたって人事不省から回復しなかったこともある。ブラック・クラウドは
「霊媒の幽体を戻すために私は当分この身体から離れていなければならない。こうした危害が幽体が戻りきれないほどになると、霊媒はそのまま死んでしまう」と説明した。
こうした状態、とくに人事不省の状況の間は、治療霊団が治療に当たっている。ある実験会で霊媒がいつまでも意識を回復しないので列席者がいろいろ手当てしたが効果がなかったことがある。するとブラック・クラウドの声がして〝そのままにしておくように〟と言って来た。
最近あったことであるが、列席者の不手際から霊媒の人事不省が続いた時、ブラック・クラウドがもう一度霊媒の身体に入って意識を回復させたことがある。そんな時にはウェバー氏に何の後遺症も残らないのは注目すべきことである。
デイリー・ミラー紙のカメラマンが出席していた実験会での出来ごとであるが、霊媒が椅子ごと浮揚しているところを撮影しようとしていたら、ブラック・クラウドが〝写真!〟と言わずに〝ライト!〟と言って来た。
照明係がモタモタしていると再びブラック・クラウドが〝ライトをつけて!〟と強い命令調で言った。慌ててライトをつけると霊媒がかなり高い位置に浮揚していて、みんなどうなるかとヒヤヒヤしながら見守った。
するとさらに驚いたことに、霊媒がくるりと逆さまになりながらゆっくりと降りて来て、その姿勢のまま、つまり足を上にしたまま頭から床の上にゴツンと降りた。
すぐさま列席者が駆け寄って身体と椅子を正常に戻したが、それからニ十分間ほど無意識状態が続いたあと、ようやく意識を回復した。何の異常も後遺症も見られなかった。一ばん不思議だったのは、頭部の床に当たった箇所にキズはおろか赤いアザも見られなかったことである。(メガホン現象でも似たような無キズの現象が起きている。──第八章)
ウェバー氏には、まだ炭坑夫だった頃の興味ぶかい体験談がある。本立て坑(メインシャフト)から二マイルほど離れた採掘坑で一人で修理作業をしていた時ランプが消えてしまった。
曲がりくねった何本もの坑道が入くんでいる真っ暗闇の地下から一人で這い出てくることはまず不可能に近いのであるが、ウェバー氏の話によると、顔の前に小さな青い炎が見え、そのあとに付いて行ったら本立て坑に出たという。
仲間にその話をしても誰も信じなかったそうであるが、それが起きたのはウェバー氏がまだ自分に霊能があることを知る前であった。
こうした物理的心霊現象の実験会に出席する人に用心の上にも用心していただきたいのは、許されたこと以外の勝手な行為、意図的に現象を邪魔するような行為、物体が浮揚しているとき、あるいはそれがどこかに降りた時にいきなり触る行為は絶対に慎んでいただきたいということである。霊媒の生命にも係ることにもなりかねないからである。
写真を見ればそれにどんな性質のエネルギーが作用しているかは判るが、どれほどのパワー(力)が加わっているかまで判らない。実際には物凄いパワーが加えられているかも知れない。そんな時に不意に外的な刺戟を受けると、そのパワーをもったエクトプラズムが一気に霊媒の体内に戻ろうとする。
するとその爆発的なパワーのために霊媒が一ぺんに殺されてしまうことだってあり得る。少なくとも健康を損ねたり、目を傷めたり、あるいは霊媒能力そのものを台無しにしてしまう。会全体を支配している霊の許可と協力なしに勝手な実験をすることは絶対に慎むべきである。
筆者自身の個人的体験であるが、ある夜、持ちにくい荷物をかかえて家路を急いでいた時のことであるが、曲がり角を折れてすぐ道路を斜めに横切ろうとして道路の途中まで来たとき、急に衝動を覚えて歩を速めて歩道に辿りついた。
その直後に石炭を積んだトラックが猛スピードで同じ角を曲がって来た。もしも途中で歩を速めなかったら、おそらく道路の途中で足がすくんで万事休していたであろう。
筆者以外にもウェバー氏と関わりのある人が窮地を救われたという話がいくつかある。
本章では英国の二大心霊紙サイキック・ニューズとツーワールズから関連記事を抜粋して紹介しておく。
「バーミンガムにおける実験会で二六本のバラの花が引き寄せられた二六人の列席者に一本ずつ配られた。ドアも窓も締め切ったままだった。(出席者が二六人であることは花が配られるまで分からなかった)」
サイキック・ニューズ一九三九・七・八付
「バークベックにおける実験会で珍しい現象が見られた。カギをかけたピアノの蓋の上に水の入ったボールを置き、レコードプレーヤーのキャビネットの上には水差しを置いておいた。しかも両方とも霊媒からはるか手の届かない位置にあったにもかかわらず、ウェバーの背後霊はちゃんとそのプレーヤーのターンテーブルにレコードを置いてその曲をかけ、ピアノも弾いてみせた」
同前
「他界した数人の知人が列席者に名前を呼んで話しかけ、一人一人が生前の間柄を正確に述べた。
二度目に出席したとき私は母親を連れて行った。そのことはウェバー氏には内緒にしておいた。にもかかわらず他界した父が生前と同じ呼び方で母に話しかけた。その声といい物の言い方といい、間違いなく生前の父それであった。それがあまりに歴然としていたので、それまで懐疑的だった母も即座に父であることを認めた」
ツーワールズ 一九三九・三・三付
「その日、霊媒を縛ったのは郵便局の技術師だった。(中略)幼くして死んだ私の息子が話しかけてきた。メガホンは使ったり使わなかったりだった。そのあと私の顔から五インチも離れていないところに物質化して出て来て(中略)ママに話したいことがあると言ってから〝瓶〟の話を持ち出した。
〝何の瓶?〟と妻が聞くと
〝覚えてないの? 柩の中のボクの手に握らせたじゃない?〟と言った。
それを聞いて妻はどっと泣きくずれた。そこで私が
〝その時どこにいたの?〟と聞くと
〝ママのそばに立っていたよ〟といった。
瓶のことは知らなかったので、あとで妻に聞いたところ、葬儀の前の日に香の瓶を握らせたとのことだった」
同前
「・・・・・・ウェバー氏の椅子からかなり離れたところで浮いているメガホンで話しかけて来た声が他界した父であることは疑いなかった・・・・・・。父の声には特徴があり、間違えることはまずなかった。三つの大学で教えた知的職業人であり教養人であった。それが言葉にも声にもしゃべり方にも抑揚にもはっきりと出ていた。それにひきかえウェバー氏は肉体労働者のしゃべり方であり、田舎くさいところがあった」
同前
「ブラック・クラウドが霊媒を分解してみせると言った。すると赤色光の中で私たちが見てる目の前で、霊媒の頭部と腕と手が消えて無くなり、椅子にはただ衣服だけが残っていた。その状態が約一分間続いた。そして、みんなが見守る中で、その消えた部分がみるみる表れてきた」
同前
第十九章 出席者による危険行為
ウェバー氏は公開実験会及び霊能開発のためのホームサークルを、合わせて、一年間にほぼ二百回も催している。霊能を磨くためのホームサークルへの出席を拒んだことは一度もない。背後霊団が赤色光の中で霊の威力を示し、物質化像を出現させ、そのための技術をあれこれと試してみたのはじつにそのホームサークルにおいてであった。
こうした実験会にありがちな事故の危険性から霊媒を守るために、ありとあらゆる注意が払われた。しかし、二百回もの回数を重ねるうちには、やはり何度か事故が起きている。
決して故意にではないのであるが、エクトプラズムのアームまたはロッドによって支えられている物品にうっかり人為的な力を加えてしまうことがままある。
たとえば、これはホームサークルでの出来ごとであるが、四本のメガホンが浮揚現象を展開中に、そのうちの一本が一時的に一人の列席者の肩とか膝の上に来た時に、その人がうっかりそのメガホンを動かしたことがある。その時、霊媒は口と鼻から出血していた。
また、これは故意にやったのであるが、誰かが照明のスイッチを入れたことがある。すると霊媒は太陽神経叢のあたりから出血した。その時は出血の程度が軽かったらしくて現象が続行されたが、こうした場合は即刻中止となるのが普通である。
そうした身体への危害のために霊媒が長時間にわたって人事不省から回復しなかったこともある。ブラック・クラウドは
「霊媒の幽体を戻すために私は当分この身体から離れていなければならない。こうした危害が幽体が戻りきれないほどになると、霊媒はそのまま死んでしまう」と説明した。
こうした状態、とくに人事不省の状況の間は、治療霊団が治療に当たっている。ある実験会で霊媒がいつまでも意識を回復しないので列席者がいろいろ手当てしたが効果がなかったことがある。するとブラック・クラウドの声がして〝そのままにしておくように〟と言って来た。
最近あったことであるが、列席者の不手際から霊媒の人事不省が続いた時、ブラック・クラウドがもう一度霊媒の身体に入って意識を回復させたことがある。そんな時にはウェバー氏に何の後遺症も残らないのは注目すべきことである。
デイリー・ミラー紙のカメラマンが出席していた実験会での出来ごとであるが、霊媒が椅子ごと浮揚しているところを撮影しようとしていたら、ブラック・クラウドが〝写真!〟と言わずに〝ライト!〟と言って来た。
照明係がモタモタしていると再びブラック・クラウドが〝ライトをつけて!〟と強い命令調で言った。慌ててライトをつけると霊媒がかなり高い位置に浮揚していて、みんなどうなるかとヒヤヒヤしながら見守った。
するとさらに驚いたことに、霊媒がくるりと逆さまになりながらゆっくりと降りて来て、その姿勢のまま、つまり足を上にしたまま頭から床の上にゴツンと降りた。
すぐさま列席者が駆け寄って身体と椅子を正常に戻したが、それからニ十分間ほど無意識状態が続いたあと、ようやく意識を回復した。何の異常も後遺症も見られなかった。一ばん不思議だったのは、頭部の床に当たった箇所にキズはおろか赤いアザも見られなかったことである。(メガホン現象でも似たような無キズの現象が起きている。──第八章)
ウェバー氏には、まだ炭坑夫だった頃の興味ぶかい体験談がある。本立て坑(メインシャフト)から二マイルほど離れた採掘坑で一人で修理作業をしていた時ランプが消えてしまった。
曲がりくねった何本もの坑道が入くんでいる真っ暗闇の地下から一人で這い出てくることはまず不可能に近いのであるが、ウェバー氏の話によると、顔の前に小さな青い炎が見え、そのあとに付いて行ったら本立て坑に出たという。
仲間にその話をしても誰も信じなかったそうであるが、それが起きたのはウェバー氏がまだ自分に霊能があることを知る前であった。
こうした物理的心霊現象の実験会に出席する人に用心の上にも用心していただきたいのは、許されたこと以外の勝手な行為、意図的に現象を邪魔するような行為、物体が浮揚しているとき、あるいはそれがどこかに降りた時にいきなり触る行為は絶対に慎んでいただきたいということである。霊媒の生命にも係ることにもなりかねないからである。
写真を見ればそれにどんな性質のエネルギーが作用しているかは判るが、どれほどのパワー(力)が加わっているかまで判らない。実際には物凄いパワーが加えられているかも知れない。そんな時に不意に外的な刺戟を受けると、そのパワーをもったエクトプラズムが一気に霊媒の体内に戻ろうとする。
するとその爆発的なパワーのために霊媒が一ぺんに殺されてしまうことだってあり得る。少なくとも健康を損ねたり、目を傷めたり、あるいは霊媒能力そのものを台無しにしてしまう。会全体を支配している霊の許可と協力なしに勝手な実験をすることは絶対に慎むべきである。
筆者自身の個人的体験であるが、ある夜、持ちにくい荷物をかかえて家路を急いでいた時のことであるが、曲がり角を折れてすぐ道路を斜めに横切ろうとして道路の途中まで来たとき、急に衝動を覚えて歩を速めて歩道に辿りついた。
その直後に石炭を積んだトラックが猛スピードで同じ角を曲がって来た。もしも途中で歩を速めなかったら、おそらく道路の途中で足がすくんで万事休していたであろう。
筆者以外にもウェバー氏と関わりのある人が窮地を救われたという話がいくつかある。
第二〇章 背後霊以外の霊による妨害行為
実験室内の電気器具が故障したり、霊側が出す電力によるのではないかと思われるような、説明のつかない偶発現象が数多く起きている。
たとえばある夜の実験で、いつものように赤外線写真を撮ることになっていて、バッテリー、リード線、接続等々全部オーバーホールしてチェックし、異常のないことを確認していた。
いよいよ撮影のチャンスが来て「写真!」の命令が出たのでシャッターを押したところ、フラッシュが作動しない。バルブを替えてみたがやはりだめだった。実験が終わってから一つ一つバルブを試してみたら、全部閃光を発した。
リーズ心霊研究協会で行った実験でも似たような現象が起きた。最初のバルブが作動しなかったので、ライトをつけてバッテリーを新しいのと取り替え、フラッシュ装置を点検してからライトを消し、実験を再開した。が、やはりバルブが閃光を発しない。
何回やってもだめだった。そのうちの一回はフラッシュ装置のあたりに正体不明の光が見えた。
ホームサークルにおける実験でも、加減抵抗器に誰も手を触れないのに、赤色光の光度が何度も強くなったり弱くなったりした。
別の実験会でも、原因不明の現象があったあと、ライトをつけて点検したところ、その家のヒューズに異常があった。
あとの二件の場合はヒューズと電圧を直接操作している証拠があり、背後霊の意図でやったことだという説明がつく。
説明がつかないのが前の二件とフラッシュ装置近くに見えた正体不明の光である。表面的に見れば写真を撮らせないようにしたようでもあり、そうだとすると、せっかくの準備をみずからの手で台無しにしたことになる。
そこで考えられるのが、霊媒の背後霊とは別のスピリットがやったという見方である。というのは、ブラック・クラウドが時おり、邪魔しようとする霊がいるのでコンセントを抜くようにと言ったことがあるのである。
それは必ずしも悪質な妨害をしようとしたとはかぎらない。霊媒の背後霊団がある目的をもって実践しているその場を利用して、他の研究グループが彼らなりの考えで勝手に操作していると考えても、あながち不合理とも言えないわけである。
一九四〇年一月にウルバーハンプトンで行われた実験会でショッキングな事故が起きた。列席者全員が注視している中で、浮揚していたメガホンがぱっと閃光を発して床に落ちた。ブラック・クラウドの要請でつけられた照明の中でウェバー氏が鼻と指の爪のところから出血して人事不省になっていた。
その日の実験会の主催者は同じく霊媒であるハーバート・ライト氏で、照明係も兼ねてサークルの外側に位置していたが、メガホンが閃光を発した時、ライト氏も太陽神経叢のあたりに猛烈なショックを受けた。そのショックで倒れそうになりながらも、ブラック・クラウドの「ライト!」の声を聞いてどうにかスイッチを押し、次の瞬間、氏も人事不省の陥った。
これで判るとおり、メガホンから閃光が発せられた時はライト氏はスイッチを押しておらず、したがってその閃光はライト氏のせいではない。
ライト氏の人事不省は十分ほど続いたが、その間氏は呼吸運動をしておらず、一方その身体から蒸気の雲のようなものが出てくるのが見えた。
やがて意識を取り戻した時、ライト氏の衣服は汗でびっしょりになっており、その肌にはいわゆるサイキックバーン(霊的なヤケド)の跡がついていた。赤い色をしており、3/4インチの幅で太陽神経叢のあたりから出て、右回りにからだをベルト状にひと巻きしていた。触ると非常に痛がった。
が、ライト氏が受けた一番の危害は、それとは別の神経中枢の損傷だった。
それから二、三日後に筆者がブラック・クラウドに事故の説明を求めたところ、これは、現象の演出のために出しているパワーが霊媒の頭上に下がっていた電燈線に接続されたために起きたとのことだった。
実験室で使われていたパワーが、そのショックで霊媒とライト氏の二人に分散されて吸収されたわけで、こうした事故ははじめてだった。もしもライト氏に分散されずに全部がウェバー氏に吸収されていたら、氏は生命にも係る大危害をこうむっていたであろうことはまず疑問の余地がない。
実験室内の電気器具が故障したり、霊側が出す電力によるのではないかと思われるような、説明のつかない偶発現象が数多く起きている。
たとえばある夜の実験で、いつものように赤外線写真を撮ることになっていて、バッテリー、リード線、接続等々全部オーバーホールしてチェックし、異常のないことを確認していた。
いよいよ撮影のチャンスが来て「写真!」の命令が出たのでシャッターを押したところ、フラッシュが作動しない。バルブを替えてみたがやはりだめだった。実験が終わってから一つ一つバルブを試してみたら、全部閃光を発した。
リーズ心霊研究協会で行った実験でも似たような現象が起きた。最初のバルブが作動しなかったので、ライトをつけてバッテリーを新しいのと取り替え、フラッシュ装置を点検してからライトを消し、実験を再開した。が、やはりバルブが閃光を発しない。
何回やってもだめだった。そのうちの一回はフラッシュ装置のあたりに正体不明の光が見えた。
ホームサークルにおける実験でも、加減抵抗器に誰も手を触れないのに、赤色光の光度が何度も強くなったり弱くなったりした。
別の実験会でも、原因不明の現象があったあと、ライトをつけて点検したところ、その家のヒューズに異常があった。
あとの二件の場合はヒューズと電圧を直接操作している証拠があり、背後霊の意図でやったことだという説明がつく。
説明がつかないのが前の二件とフラッシュ装置近くに見えた正体不明の光である。表面的に見れば写真を撮らせないようにしたようでもあり、そうだとすると、せっかくの準備をみずからの手で台無しにしたことになる。
そこで考えられるのが、霊媒の背後霊とは別のスピリットがやったという見方である。というのは、ブラック・クラウドが時おり、邪魔しようとする霊がいるのでコンセントを抜くようにと言ったことがあるのである。
それは必ずしも悪質な妨害をしようとしたとはかぎらない。霊媒の背後霊団がある目的をもって実践しているその場を利用して、他の研究グループが彼らなりの考えで勝手に操作していると考えても、あながち不合理とも言えないわけである。
一九四〇年一月にウルバーハンプトンで行われた実験会でショッキングな事故が起きた。列席者全員が注視している中で、浮揚していたメガホンがぱっと閃光を発して床に落ちた。ブラック・クラウドの要請でつけられた照明の中でウェバー氏が鼻と指の爪のところから出血して人事不省になっていた。
その日の実験会の主催者は同じく霊媒であるハーバート・ライト氏で、照明係も兼ねてサークルの外側に位置していたが、メガホンが閃光を発した時、ライト氏も太陽神経叢のあたりに猛烈なショックを受けた。そのショックで倒れそうになりながらも、ブラック・クラウドの「ライト!」の声を聞いてどうにかスイッチを押し、次の瞬間、氏も人事不省の陥った。
これで判るとおり、メガホンから閃光が発せられた時はライト氏はスイッチを押しておらず、したがってその閃光はライト氏のせいではない。
ライト氏の人事不省は十分ほど続いたが、その間氏は呼吸運動をしておらず、一方その身体から蒸気の雲のようなものが出てくるのが見えた。
やがて意識を取り戻した時、ライト氏の衣服は汗でびっしょりになっており、その肌にはいわゆるサイキックバーン(霊的なヤケド)の跡がついていた。赤い色をしており、3/4インチの幅で太陽神経叢のあたりから出て、右回りにからだをベルト状にひと巻きしていた。触ると非常に痛がった。
が、ライト氏が受けた一番の危害は、それとは別の神経中枢の損傷だった。
それから二、三日後に筆者がブラック・クラウドに事故の説明を求めたところ、これは、現象の演出のために出しているパワーが霊媒の頭上に下がっていた電燈線に接続されたために起きたとのことだった。
実験室で使われていたパワーが、そのショックで霊媒とライト氏の二人に分散されて吸収されたわけで、こうした事故ははじめてだった。もしもライト氏に分散されずに全部がウェバー氏に吸収されていたら、氏は生命にも係る大危害をこうむっていたであろうことはまず疑問の余地がない。
第二一章 結 論
前章まで読まれた方の心には様々な疑問が渦巻いていることであろう。もちろん死後の存続を確信している人にとっては、これ以上何一つ付け加える必要はない。霊力の驚異的働きを改めて確認して、驚嘆しつつもそれを理解できるからである。
が、こうした現象には何の予備知識も持ち合わせない人にとっては、大なり小なりの当惑は免れないであろう。くどいようであるが、現象はすべてごく最近起きたものばかりである。そして今なお起きている。見ようと思えば見られるし、写真に撮ることも出来る。
もっとも、だからといって、こういう現象を見せろとか、ああいう現象を撮らせろといった興味本位の個人的な要求にいちいち応じるわけにはいかない。そんな性質のものではないのである。が、真面目な研究団体からの要求に対しては出来得るかぎりの便宜を図る用意のあることを表明しておく。
実験会に関する報道記事の一つ一つ、並びに写真の一枚一枚について何度でも繰り返し立証することが可能なのである。(本稿は霊媒の他界前に書いた。但し、同種の現象は他の霊媒による実験会でも見られることを付記しておく)
こうしたことを私が今さらのように強調するのは、一つ一つについてそれほどまでに徹底した確証を用意していても、予想される唯一の非難、つまり、その現象をすべて想像上の産物ときめつけ、何千人もの出席者と諸機関の代表を巻き込んだ陰謀によって写真を〝演出〟したのだという説に対処するためである。
さて、もしも読者が本書で紹介された超常現象をすべて本物と認められるなら、次に列記する事実から重大な結論に達することであろう。
一、各現象とも最初から最後まで計画・演出されたものである。
二、現象を起こすためには法則に支配されたエネルギーの働きがある。
三、意識的にせよ無意識的にせよ、そうした現象を人間が演出することは、知的にも物理
的にも不可能である。
四、人間がこれまで知り得た範囲内のエネルギーの使用には知的操作が必要である。
五、霊的エネルギーを使用するにも同じく知的な指揮・操作が要求される。
六、一つの現象を発生させるにはスピリットの働きと物理的エネルギーの組合わせが必要
である。
七、スピリットにそれだけの知的能力があるとなれば、それは経験と思考活動を通じてし
か獲得できないはずである。その種の経験は人間的努力によって得られたものではな
い。従ってそれは人間の潜在意識による産物ではあり得ない。
八、現象に付随して得られる死後存続に関するスピリットの証言も、当然、現象の一部と
して見なしてよい。
九、他界した人間が地上時代の身体を再創造してみせたことで、〝死後〟にもある種の存
在形態があり、地上の人間との間で互いに認識し合い、共通の記憶を語り合う能力を
持ち続けていると考えるのは妥当である。
以上の観察から次のような問いかけとその結論が出てくる。
霊的エネルギーおよび物理的エネルギーの双方を指揮・操作できる知的存在とは一体いかなる存在なのか。論理的にはどうあっても肉体のない存在、すなわち霊的な知的存在ということになる。
それは、その霊的存在が人間の霊媒能力を通じて人間と交信するために他の霊的存在と連絡し合っていることが間違いない事実であることを考慮するとなお一層確実である。さらに論理的にはこの地上生活のあとに引き続き個人的存在としての活動の期間があるに相違ない。
結局われわれは第一章の〝まえがき〟で述べた本書の目的に舞い戻ってきたことになる。それは、死後の存続が真実であること──証明された事実であることを立証することであった。
もし本書がそれを立証し得たとすれば、本書の目的が成就されたことになり、従来の価値観に大きな変化が生じるに違いない。
前章まで読まれた方の心には様々な疑問が渦巻いていることであろう。もちろん死後の存続を確信している人にとっては、これ以上何一つ付け加える必要はない。霊力の驚異的働きを改めて確認して、驚嘆しつつもそれを理解できるからである。
が、こうした現象には何の予備知識も持ち合わせない人にとっては、大なり小なりの当惑は免れないであろう。くどいようであるが、現象はすべてごく最近起きたものばかりである。そして今なお起きている。見ようと思えば見られるし、写真に撮ることも出来る。
もっとも、だからといって、こういう現象を見せろとか、ああいう現象を撮らせろといった興味本位の個人的な要求にいちいち応じるわけにはいかない。そんな性質のものではないのである。が、真面目な研究団体からの要求に対しては出来得るかぎりの便宜を図る用意のあることを表明しておく。
実験会に関する報道記事の一つ一つ、並びに写真の一枚一枚について何度でも繰り返し立証することが可能なのである。(本稿は霊媒の他界前に書いた。但し、同種の現象は他の霊媒による実験会でも見られることを付記しておく)
こうしたことを私が今さらのように強調するのは、一つ一つについてそれほどまでに徹底した確証を用意していても、予想される唯一の非難、つまり、その現象をすべて想像上の産物ときめつけ、何千人もの出席者と諸機関の代表を巻き込んだ陰謀によって写真を〝演出〟したのだという説に対処するためである。
さて、もしも読者が本書で紹介された超常現象をすべて本物と認められるなら、次に列記する事実から重大な結論に達することであろう。
一、各現象とも最初から最後まで計画・演出されたものである。
二、現象を起こすためには法則に支配されたエネルギーの働きがある。
三、意識的にせよ無意識的にせよ、そうした現象を人間が演出することは、知的にも物理
的にも不可能である。
四、人間がこれまで知り得た範囲内のエネルギーの使用には知的操作が必要である。
五、霊的エネルギーを使用するにも同じく知的な指揮・操作が要求される。
六、一つの現象を発生させるにはスピリットの働きと物理的エネルギーの組合わせが必要
である。
七、スピリットにそれだけの知的能力があるとなれば、それは経験と思考活動を通じてし
か獲得できないはずである。その種の経験は人間的努力によって得られたものではな
い。従ってそれは人間の潜在意識による産物ではあり得ない。
八、現象に付随して得られる死後存続に関するスピリットの証言も、当然、現象の一部と
して見なしてよい。
九、他界した人間が地上時代の身体を再創造してみせたことで、〝死後〟にもある種の存
在形態があり、地上の人間との間で互いに認識し合い、共通の記憶を語り合う能力を
持ち続けていると考えるのは妥当である。
以上の観察から次のような問いかけとその結論が出てくる。
霊的エネルギーおよび物理的エネルギーの双方を指揮・操作できる知的存在とは一体いかなる存在なのか。論理的にはどうあっても肉体のない存在、すなわち霊的な知的存在ということになる。
それは、その霊的存在が人間の霊媒能力を通じて人間と交信するために他の霊的存在と連絡し合っていることが間違いない事実であることを考慮するとなお一層確実である。さらに論理的にはこの地上生活のあとに引き続き個人的存在としての活動の期間があるに相違ない。
結局われわれは第一章の〝まえがき〟で述べた本書の目的に舞い戻ってきたことになる。それは、死後の存続が真実であること──証明された事実であることを立証することであった。
もし本書がそれを立証し得たとすれば、本書の目的が成就されたことになり、従来の価値観に大きな変化が生じるに違いない。
第二二章 ウェバー氏の急死と〝帰還〟
一九四〇年三月九日午前九時半、ジャック・ウェバー氏が脊髄膜炎を患ってわずか三日後に急死した。三三歳だった。
本書の原稿は一月にすでに出版社の手に渡っていた。
原稿を書き上げた時点ではウェバー氏は相変わらず実験会を続けており、それから後もずっと続けられる見通しがあったので、筆者は「まえがき」と「結論」の中で、本書で紹介した現象はすべて〝現在(いま)〟起きているもので、従って真面目な研究団体ならそれと同じものをお見せできると公言しておいたのであるが、不幸にしてウェバー氏の死によって事態が一変してしまった。
が、出版社と協議のすえ、本書はこうした説明を加えて一応原稿通りで出版することに決定した。
一九四〇年に入ってからの写真を入れたかったのと、全体として出来るかぎり完璧を期すために、多くの章に〝補遺〟を加えた。
ここで読者の懸念を考慮して付言させていただくと、この一年間ウェバー氏の霊媒能力にはいささかの衰えも見えなかった。実験回数も厳しく制限し、決められたことは絶対に守った。
身体上の健康についても背後霊団にしばしば打診し、そのつど体力上の衰えについての懸念も兆候もないことを知らされていた。ウェバー氏は頑丈なからだつきをしており、十四歳から現在に至るまで病気をしたことは一度もなかった。従って氏の急死を霊媒としての仕事と結びつけるべき根拠は、われわれの知るかぎりでは、何一つ見当たらないのである。
例の驚異的な上着の写真(No7)を撮影したのが死ぬわずか十二日まえである。しかもそのあと、死ぬ前の週にはロンドンのスピリチュアリスト・コミュティで二回も、それも素晴らしい実験会を催している。
ウェバー氏を失ったことはスピリチュアリズムの普及活動にとっては手痛い打撃であるが、人間的心情としては、死後の存続という知識によってわれわれの悲しみは大いに和らげられる。現にウェバー氏がすでに各地の霊能者にその存続を知らせてきている証拠が次々と出ている。
まず、すぐ翌日の三月十日、日曜日のことである。マリルボーン・スピリチュアリスト協会のウォンズワース分会で霊能者のバーサ・ハリス女史がデモンストレーションを催していた。
会のあとハリス女史が語ったところによると、会の途中でメガホンが女史のまわりをぐるぐると旋回するのを感じ、続いてジャック・ウェバーの名前がひらめき、同時にハリー・エドワーズ(筆者)に会いたがっているという印象を受けたという。
たまたま筆者はその分会まで来ていたのであるが、到着が遅れたために満員の会場に入れず、やむなく別館にいて、誰とも話をまじえることなく帰ったのだった。
こうしたことが判明したのは、実はその会にもう一人、ジャック・ウェーバーの死を知っている婦人が出席していて、会のあとハリス女史にその話を告げたからであるが、婦人から聞かされるまでハリス女史はウェバー氏が死んだことを知らず、なぜメガホンが出たり筆者に会いたいというメッセージを送ってくるのか理解できなかったという。
次はその二日後の十二日火曜日のことである。ヘンドン・スピリチュアリスト協会で霊能者のエベリン・キヤノン女史がデモンストレーションを行っていた。
ここは実はウェバー氏がロンドンで最初に実験会を開いたところであり、当時何も知らなかった筆者が会長のキャサリン・ウェルソン女史の招きで列席して初めて心霊実験なるものを見たところであり、それがきっかけとなって本格的にウェバー氏を実験することになり、その結果が今まさにこうした一冊の書物にまとめられるという、われわれにとってきわめて縁の深いところであるが、その日の催しでキャノン女史の前にウェバー氏が現れた。
が、女史はウェバー氏が他界したことを知らず、てっきりいつものウェバー氏と思い込んでいたので、なぜこんなところに立っているのか、ただ当惑するばかりだった。女史が当惑するのを見てウェバー氏は首を振ってやがて姿を消したという。女史がウェバー氏の死を知ったのは、あとで会長のウィルソン女史にその話をした時だった。
同じ十二日の夜のことである。グレート・メトロポリタン・スピリチュアリスト協会でハロルド・エバンズ氏による直接談話の養成実験会が開かれていた時、浮揚したメガホンからウェバー氏の声がした。この教会もウェバー氏が何度も実験会を開いたところで、列席者の中には氏を知る人が大勢いたので、ウェバー氏であることはすぐに知れた。
ウェバー氏の話の内容は別として(その内容もウェバー氏に間違いないものであるが)、その声の質、話しぶり等すべてにウェバー氏の特徴が出ており、それなりに証拠的価値が高い。
翌水曜日のことである。霊媒のハロルド・シャープ氏が何人かの仲間といっしょにいるウェバー氏の姿を霊視した。仲間の一人はウェバー氏の親友の一人のランダー夫人で、ウェバー氏より二、三カ月前に他界している。ウェバー氏はシャープ氏に向かって一人の赤ん坊を抱きあげて見せたと言う。ウェバー氏は他界する一か月余り前に幼くして死んだ姪の葬儀に出席している。シャープ氏はそのことを知らなかった。
翌木曜日の夕方のことである。ウェバー氏の遺体の埋葬を終えて、家族と養成会(サークル)のメンバーによる儀式が自宅で行われることになっていた。椅子を配置し、電燈を消して準備が整った。暖炉の火だけが明るく見えていた。
そこへウェバー氏の実父が入ってきた。すでにかなりお年の老紳士で、心霊に関してはあまり熱心ではなかった。部屋にはまだ誰もおらず、少しからだを休めようと思って早目に入ったのである。
ドアを開けてみると、その部屋に息子のジャック(ウェバー氏)がいる。父親はその時少しも変だとは思わず、息子の方へ歩を進めて握手をした。そして、握手をしているうちに、いま自分がしていることの不思議さに気づき、とたんに恐怖感に襲われた。そしてそれから数時間、気分が悪くて仕方がなかったという。その時の様子は、ジャックが〝本当にそこにいる〟ようだった、そして握手をした時も確かに手の感触はあったということである。
それから二週間、こうして原稿を書いている現時点までに、他の多くの霊媒を通じてウェバー氏がその存続を明らかにした報告が相次いで寄せられている。が、右に紹介したものだけで充分な証拠になるであろう。
注目すべきことは、右のすべてのケースにおいてウェバー氏は生前よく知り合っていた人、好感を抱いていた人に出ていること、特にそのうち三つのケースにおいては、霊媒がウェバー氏の死を知らされる前に見ているということである。
ご家族および知人・友人の方々にとっては、あれほど用心し、まわりに心霊治療家もおり、その上スピリットによる援助がありながら、なぜこうもあっさりと他界してしまったのかと思われるのも無理からぬことである。が、正直言って、現在のところそれに対する確かな回答を出しかねている。
しかし多分これからウェバー氏は新しい世界において、人間の死後存続の証明のための新たな仕事に取りかかり、それによってきっと右の疑問に対する確固たる解答を出してくれることであろう。本書で紹介した幾つかの〝帰還〟の出来ごとがその希望的推測の手がかりと言えるかも知れない。
補 遺 一九四〇年三月
この一月に霊媒のジョージ・デイズリー氏がレイトン女史の霊能開発に関する支配霊トマソからの忠言を伝えに筆者を訪ねてきた。そしてレイトン女史と筆者を前にして入神した。
その時のことであるが、支配霊のトマソが筆者に向かって、前の予言(筆者がウェバー氏の現象についての本を書くことになるということ──これはその通りになった)について言及して、その本を書いてる途中で残念なことが起きるが、何とか乗り切れるだろうといった意味のことを述べてから、非常に悲しい出来事が起きる──ウェバー氏と筆者との別れが出会いと同じように突然訪れる、と述べた。
前の予言の時もそうだったが、この時も私は半信半疑で、あまり気にかけなかった。というのも、その時点での状況から判断すれば、どうみてもウェバー氏との別れは遠い先のこととしか思えなかったのである。が、この予言も的中してしまった。この世での別れが、言われたとおり突如として訪れたのである。
ウェバー氏の背後霊にはその死が前から判っていたのだろうか。今となっては知る由もない。ただはっきりしていることは、トマソの予言が二つとも(その時は信じられなかったのが)現実となったということである。
スピリットのすることを深く探れば探るほど、われわれ人間がいかに無知で無理解であるかを思い知らされるばかりである。人間界と霊界との間には明らかに人間の能力では超えられない境界がある。が、その暗い霧の中から、断片的ながらも事実に裏付けされたものを少しずつ寄せ集めて、死後の世界についての、より大きな知識を得る道を探っていくことはできる。
少なくとも生命に〝死〟はない──その向こうに現在のわれわれの想像を超えた素晴らしい新たな個人的存在の生活の場が待ちうけていることだけは間違いないと確信している。
一九四〇年三月九日午前九時半、ジャック・ウェバー氏が脊髄膜炎を患ってわずか三日後に急死した。三三歳だった。
本書の原稿は一月にすでに出版社の手に渡っていた。
原稿を書き上げた時点ではウェバー氏は相変わらず実験会を続けており、それから後もずっと続けられる見通しがあったので、筆者は「まえがき」と「結論」の中で、本書で紹介した現象はすべて〝現在(いま)〟起きているもので、従って真面目な研究団体ならそれと同じものをお見せできると公言しておいたのであるが、不幸にしてウェバー氏の死によって事態が一変してしまった。
が、出版社と協議のすえ、本書はこうした説明を加えて一応原稿通りで出版することに決定した。
一九四〇年に入ってからの写真を入れたかったのと、全体として出来るかぎり完璧を期すために、多くの章に〝補遺〟を加えた。
ここで読者の懸念を考慮して付言させていただくと、この一年間ウェバー氏の霊媒能力にはいささかの衰えも見えなかった。実験回数も厳しく制限し、決められたことは絶対に守った。
身体上の健康についても背後霊団にしばしば打診し、そのつど体力上の衰えについての懸念も兆候もないことを知らされていた。ウェバー氏は頑丈なからだつきをしており、十四歳から現在に至るまで病気をしたことは一度もなかった。従って氏の急死を霊媒としての仕事と結びつけるべき根拠は、われわれの知るかぎりでは、何一つ見当たらないのである。
例の驚異的な上着の写真(No7)を撮影したのが死ぬわずか十二日まえである。しかもそのあと、死ぬ前の週にはロンドンのスピリチュアリスト・コミュティで二回も、それも素晴らしい実験会を催している。
ウェバー氏を失ったことはスピリチュアリズムの普及活動にとっては手痛い打撃であるが、人間的心情としては、死後の存続という知識によってわれわれの悲しみは大いに和らげられる。現にウェバー氏がすでに各地の霊能者にその存続を知らせてきている証拠が次々と出ている。
まず、すぐ翌日の三月十日、日曜日のことである。マリルボーン・スピリチュアリスト協会のウォンズワース分会で霊能者のバーサ・ハリス女史がデモンストレーションを催していた。
会のあとハリス女史が語ったところによると、会の途中でメガホンが女史のまわりをぐるぐると旋回するのを感じ、続いてジャック・ウェバーの名前がひらめき、同時にハリー・エドワーズ(筆者)に会いたがっているという印象を受けたという。
たまたま筆者はその分会まで来ていたのであるが、到着が遅れたために満員の会場に入れず、やむなく別館にいて、誰とも話をまじえることなく帰ったのだった。
こうしたことが判明したのは、実はその会にもう一人、ジャック・ウェーバーの死を知っている婦人が出席していて、会のあとハリス女史にその話を告げたからであるが、婦人から聞かされるまでハリス女史はウェバー氏が死んだことを知らず、なぜメガホンが出たり筆者に会いたいというメッセージを送ってくるのか理解できなかったという。
次はその二日後の十二日火曜日のことである。ヘンドン・スピリチュアリスト協会で霊能者のエベリン・キヤノン女史がデモンストレーションを行っていた。
ここは実はウェバー氏がロンドンで最初に実験会を開いたところであり、当時何も知らなかった筆者が会長のキャサリン・ウェルソン女史の招きで列席して初めて心霊実験なるものを見たところであり、それがきっかけとなって本格的にウェバー氏を実験することになり、その結果が今まさにこうした一冊の書物にまとめられるという、われわれにとってきわめて縁の深いところであるが、その日の催しでキャノン女史の前にウェバー氏が現れた。
が、女史はウェバー氏が他界したことを知らず、てっきりいつものウェバー氏と思い込んでいたので、なぜこんなところに立っているのか、ただ当惑するばかりだった。女史が当惑するのを見てウェバー氏は首を振ってやがて姿を消したという。女史がウェバー氏の死を知ったのは、あとで会長のウィルソン女史にその話をした時だった。
同じ十二日の夜のことである。グレート・メトロポリタン・スピリチュアリスト協会でハロルド・エバンズ氏による直接談話の養成実験会が開かれていた時、浮揚したメガホンからウェバー氏の声がした。この教会もウェバー氏が何度も実験会を開いたところで、列席者の中には氏を知る人が大勢いたので、ウェバー氏であることはすぐに知れた。
ウェバー氏の話の内容は別として(その内容もウェバー氏に間違いないものであるが)、その声の質、話しぶり等すべてにウェバー氏の特徴が出ており、それなりに証拠的価値が高い。
翌水曜日のことである。霊媒のハロルド・シャープ氏が何人かの仲間といっしょにいるウェバー氏の姿を霊視した。仲間の一人はウェバー氏の親友の一人のランダー夫人で、ウェバー氏より二、三カ月前に他界している。ウェバー氏はシャープ氏に向かって一人の赤ん坊を抱きあげて見せたと言う。ウェバー氏は他界する一か月余り前に幼くして死んだ姪の葬儀に出席している。シャープ氏はそのことを知らなかった。
翌木曜日の夕方のことである。ウェバー氏の遺体の埋葬を終えて、家族と養成会(サークル)のメンバーによる儀式が自宅で行われることになっていた。椅子を配置し、電燈を消して準備が整った。暖炉の火だけが明るく見えていた。
そこへウェバー氏の実父が入ってきた。すでにかなりお年の老紳士で、心霊に関してはあまり熱心ではなかった。部屋にはまだ誰もおらず、少しからだを休めようと思って早目に入ったのである。
ドアを開けてみると、その部屋に息子のジャック(ウェバー氏)がいる。父親はその時少しも変だとは思わず、息子の方へ歩を進めて握手をした。そして、握手をしているうちに、いま自分がしていることの不思議さに気づき、とたんに恐怖感に襲われた。そしてそれから数時間、気分が悪くて仕方がなかったという。その時の様子は、ジャックが〝本当にそこにいる〟ようだった、そして握手をした時も確かに手の感触はあったということである。
それから二週間、こうして原稿を書いている現時点までに、他の多くの霊媒を通じてウェバー氏がその存続を明らかにした報告が相次いで寄せられている。が、右に紹介したものだけで充分な証拠になるであろう。
注目すべきことは、右のすべてのケースにおいてウェバー氏は生前よく知り合っていた人、好感を抱いていた人に出ていること、特にそのうち三つのケースにおいては、霊媒がウェバー氏の死を知らされる前に見ているということである。
ご家族および知人・友人の方々にとっては、あれほど用心し、まわりに心霊治療家もおり、その上スピリットによる援助がありながら、なぜこうもあっさりと他界してしまったのかと思われるのも無理からぬことである。が、正直言って、現在のところそれに対する確かな回答を出しかねている。
しかし多分これからウェバー氏は新しい世界において、人間の死後存続の証明のための新たな仕事に取りかかり、それによってきっと右の疑問に対する確固たる解答を出してくれることであろう。本書で紹介した幾つかの〝帰還〟の出来ごとがその希望的推測の手がかりと言えるかも知れない。
補 遺 一九四〇年三月
この一月に霊媒のジョージ・デイズリー氏がレイトン女史の霊能開発に関する支配霊トマソからの忠言を伝えに筆者を訪ねてきた。そしてレイトン女史と筆者を前にして入神した。
その時のことであるが、支配霊のトマソが筆者に向かって、前の予言(筆者がウェバー氏の現象についての本を書くことになるということ──これはその通りになった)について言及して、その本を書いてる途中で残念なことが起きるが、何とか乗り切れるだろうといった意味のことを述べてから、非常に悲しい出来事が起きる──ウェバー氏と筆者との別れが出会いと同じように突然訪れる、と述べた。
前の予言の時もそうだったが、この時も私は半信半疑で、あまり気にかけなかった。というのも、その時点での状況から判断すれば、どうみてもウェバー氏との別れは遠い先のこととしか思えなかったのである。が、この予言も的中してしまった。この世での別れが、言われたとおり突如として訪れたのである。
ウェバー氏の背後霊にはその死が前から判っていたのだろうか。今となっては知る由もない。ただはっきりしていることは、トマソの予言が二つとも(その時は信じられなかったのが)現実となったということである。
スピリットのすることを深く探れば探るほど、われわれ人間がいかに無知で無理解であるかを思い知らされるばかりである。人間界と霊界との間には明らかに人間の能力では超えられない境界がある。が、その暗い霧の中から、断片的ながらも事実に裏付けされたものを少しずつ寄せ集めて、死後の世界についての、より大きな知識を得る道を探っていくことはできる。
少なくとも生命に〝死〟はない──その向こうに現在のわれわれの想像を超えた素晴らしい新たな個人的存在の生活の場が待ちうけていることだけは間違いないと確信している。
第二三章 著者の自己紹介
一八九三年ロンドンに生まれ、ノエル・パークスクールに学ぶ。
若い頃から公共活動に興味を抱き、十五歳の時に十八人から成る英国初のボーイスカウトを結成。のちに政治に興味を抱き、十八歳で自由党の一派の秘書となる。
第一次大戦中はベルギー救援財団及びプリンス・オブ・ウェールズ救援財団で働く。一九一四年に英国サセックス連隊に入隊、翌年植民地インドへ派遣された時に兵士の衛生設備のひどさを見て、その実情を訴える十六ページから成るロイヤル・サセックス・ヘラルドという新聞を二週に一度発行した。
一九一八年にイラクのバグダッドへ派遣され、さらに一九二〇年にはペルシャ(現イラン)へ送られ、そこで陸軍大尉となり、同時にペルシャ兵站線担当労働指揮官に任ぜられる。
兵役を終えたあと、印刷屋と文具店を開くかたわら、社会事業と政治にも参加。退役軍人のための協会と国際連盟(のちの国連)の英国支局を設立し、その双方の実行委員として活躍。
一九二九年には英国議会選挙で北カンバーウェルから、一九三六年には北西カンバーウェルから出馬。またロンドン州議会選挙に四回出馬する。
一九三六年からスピリチュアリズムに興味を覚え始め、霊能養成会に出席して間もなく心霊治療能力と入神談話と霊視能力を発揮する。
ジャック・ウェバー氏との出会いは一九三八年四月にウェバー氏が初めてロンドンを訪れ、ヘンドンスピリチュアリスト教会で実験会を開いた時だった。
それから九月初旬に至る四か月間にウェバー氏を三度招いて実験会を開いた。その三回目の実験会には著名な霊媒であるジョージ・デイズリー氏が出席していて、実験会を前にして、そのデイズリー氏とウェバー氏と著者の三人で談笑した。
その時ふとデイズリー氏が椅子にロープで縛られるのはどんな気分がするものか一度試してみたいと冗談半分に言うので、それではということで本当に縛ってあげた。
するとデイズリー氏が、支配霊のトマソがしゃべるようです、と言ってから入神した。出て来たトマソはまずウェバー氏に向かって
「これからこの部屋が実験室となって新しい凄い現象が起きるようになります」といってから、こんどは筆者に向かって
「あなたがその実験会の様子を本に書くことになります」と予言した。
その当時はまだウェバー氏がロンドンに常住することになる話は出ておらず、従ってその予言を私は半信半疑で聞き、あまり気にとめていなかった。
ところが二、三週間してウェバー氏から手紙が届き、ロンドンへ出たいと思うので適当な家を探してほしいと言って来た。最初のうち良い家が見つからなかったが、ふと筆者の頭にインスピレーションがひらめいて、隣の家の人に家を空けてもらえないものか頼んでみる気になった。頼んでみると意外にも快く応じてくれて、一ヶ月としないうちに出てくれた。そして間もなくウェバー氏一家が住み込むことになった。
以来その部屋で数多くの実験会が催され、写真撮影もいくつか成功し、それが本書となって出版される運びとなった次第である。
(完)
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